西陣だより

大動脈弁狭窄症とは

(この記事は2020年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

内科 医長
前田 英貴



大動脈弁狭窄症とは、大動脈弁の開口部が狭くなり左心室から大動脈への血流が阻害される弁膜症疾患です。狭窄が軽度のうちは自覚症状がほとんどなく、高度な狭窄となり症状が現れてから、初めて見つかるケースが少なくありません。

 無症候の期間は長く続きますが、狭窄が進行すると心臓に負担がかかり動悸や息切れ症状が出現し、重症例では胸痛や失神、突然死を引き起こす可能性もあります(図①)。

最近は加齢に伴う弁の石灰化が原因のものが多く、高齢化が進む日本でも患者さんの数は増加し続けています。2017年の段階で60-74歳の2.8%、75歳以上の13.1%が大動脈弁狭窄症になっていると言われており、決して珍しい病気ではありません。

 大動脈弁狭窄症は症状と心臓の聴診で疑うことができ、心臓超音波検査(心エコー検査)で簡単に診断と重症度を評価することができます。狭窄が軽度から中等度のうちは、心臓の負担を和らげる薬物治療を行いながら、定期的な心エコー検査で進行の有無を観察していきます。根本的な治療法は、いよいよ狭窄が重症まで進行した場合に行われる、開胸手術による大動脈弁置換術(SAVR)です。しかし、開胸手術は体への負担が大きく、高齢者や体力が低下した手術リスクの高い患者さんに対しては、手術が困難となることが課題となってきました。そこで注目されているのが経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)です。カテーテルに沿って折りたたまれた人工弁を運搬し、大動脈弁に留置してくる治療です(図②)。

 SAVRと比較して体への負担が少なく、カテーテル挿入部の小さな傷で済む、入院期間が短い等のメリットがあります。手術リスクが高い患者さんにおいて、術後5年の成績でTAVIが従来のSAVRに劣らないことが証明されています。日本では2013年10月に保険適応されて以降、技術や機器の進歩に伴い身近な治療になりつつあります。これまで治療を諦めざるを得なかった高リスクの患者さんでも、治療を受けることができる時代になっているのです。

 大動脈弁狭窄症は正しく診断し、治療できるタイミングを逃さないことが重要です。当科では大動脈弁狭窄症の診断と評価を行うことが可能です。薬物治療を行いながら、患者さんとご家族の意思を尊重した上で、適切なタイミングでSAVR、TAVI共に治療実績のある病院へ紹介させていただきます。最近胸の症状が気になる場合や大動脈弁狭窄症をはじめとする弁膜症疾患でお困りのことがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

2020年07月01日