西陣だより

前立腺がん検診は受けていますか?

(この記事は2021年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

腎臓・泌尿器科 医員
松田 旭央



 日本人の死亡原因の第1位は悪性新生物(がん)ですが、なかでも前立腺がんの罹患率は増加傾向にあります。2017年の統計では男性で第1位となり、日本人男性が最も罹患しやすいがんとなりました。1年間で新たに前立腺がんと診断される人数は10万人あたり約150人で、60歳頃から頻度が増加しています。(出典:全国がん登録による全国がん罹患データより)

前立腺がん検診

前立腺は男性のみにある臓器で、膀胱の下で尿道を取り囲むように位置し、精液に含まれる前立腺液をつくっています。早期の前立腺がんは、多くの場合自覚症状がありませんが、尿の出にくさや排尿回数の増加といった症状が出ることもあります。がんや炎症で前立腺組織が壊れると、PSA というたんぱく質が血中に漏れ出すので、血液検査でPSA値を調べることによって前立腺がんの可能性を調べることが可能です。一般的には 0-4ng/mlが正常範囲とされておりますが、年齢や前立腺肥大症、前立腺炎などの影響でも高くなることがあり、10ng/ml以上でもがんが発見されないこともあります。ただし、100ng/mlを超える場合はがんの可能性が非常に高く、遠隔転移も疑われます。PSA値が正常範囲を超える場合は、超音波検査やMRI検査などを追加して総合的に判断し、がんが疑わしい場合は前立腺生検による確定診断を行います。
 前立腺がん検診について、本邦では厚生労働省などで明確に定められた指針などはありませんが、50歳以上の方には検診が推奨されるという報告もあります。PSA値が1.0ng/ml以下のような低値であれば数年毎の検査でも問題ありませんが、1.0-4.0ng/ml の場合は 1 年毎の検査が必要です。

治療

前立腺がんの主な治療法は、監視療法、手術、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法と多岐に渡り、また、複数の治療法が選択可能な場合もあります。がんの悪性度や転移の有無
などによって選択可能な治療法は異なりますが、それぞれの治療法にメリット・デメリットがあり、年齢や体の状態、患者さんの希望などを基に最適な治療法を検討していきます。前立腺がんは、早期発見し適切な治療を受けることができれば完治することが出来ます。検診で要精密検査となった場合は、必ず泌尿器科を受診してください。

 

2021年03月01日

膵臓がんについて

(この記事は2021年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

消化器内科 副部長
伴 尚美


   日本人の死亡原因の 1 位は男女ともに「悪性新生物(がん)」ですが、がんは決して治らない病気ではなく、発見が早ければ完治もみこめる病気です。日本人に多い胃がんは、検診や検査の体制も整い、発症後も回復される方が増えています。
 一方で、予後が悪く難治性のがんといわれるのが膵臓がんです。全国統計では、男性では肺がん、胃がん、大腸がんについで死因の第4位、女性では大腸がん、肺がんについで第3位となっています。
 膵臓は周囲を他の臓器や血管に囲まれおり、周囲の動脈に拡がるとがんの大きさが小さくても手術ができないこともあります。周囲の血管に拡がり全身転移をする、またおなかの深いところにありみつかりにくいことなども予後の悪い原因となっています。
 膵臓がん全体の 5 年生存率は約11%と非常に不良ですが、10~20㎜の大きさで見つけた場合は約50%、10㎜以下の大きさで見つけることができれば80%以上に改善することが分かっています。

 

膵臓がんの症状

腹痛、食欲不振、腹部膨満感、体重減少、黄疸、糖尿病の発症・増悪、背中の痛み、などがあげられます。初期のころには無症状であることも多く、早期発見が難しいと言われています。

膵臓がんの危険因子

糖尿病の発 症・増悪、膵臓がんの家 族 歴、生活習慣(飲酒・喫煙)、肥満、膵炎、膵のう胞、膵管内乳頭粘液性腫瘍などがあげられます。

膵臓がんのおもな検査方法

 血液検査、腹部超音波検査、CT、MRI、また必要に応じて内視鏡的膵管造影検査、超音波内視鏡検査などが行われます。がんの見落としを防ぐために違う検査を相互に組み合わせ総合的な評価が必要です。

超音波内視鏡検査について

 膵臓は胃の後ろ側、おなかの深いところにあり、通常の腹部超音波検査ではみえにくいことがあります。超音波内視鏡検査とは、先端に超音波装置のついた内視鏡を胃に挿入し、より近くから膵臓を調べる検査です。これにより、膵臓全体を調べることができ、小さな腫瘍をみつけることができます。
 もし腫瘍がみつかった場合は、内視鏡を通して針を膵臓に刺し細胞を取り出す検査が可能です。この細胞を取り出す検査を、超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)といいます。当院においても、7年前より超音波内視鏡機器を導入し、微小膵臓がんの診断に役立てています。

 

※ 膵臓がんは早期発見がいまだ難しいのが現状です。お腹が痛くて胃カメラをしたけど異常がないと言われた方、危険因子のある方、また危険因子がなくても膵臓が気になる方はぜひ一度ご相談ください。

2021年03月01日

日本列島 ”食” めぐり「宮城県」

(この記事は2021年1・2月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

栄養科  管理栄養士  松田 実樹

全国各地の特色ある料理や名物をご紹介していきます

 

 

つゆはっと

「つゆはっと」はすいとんの一種で、小麦粉の生地を薄く延ばしてちぎった「はっと」を汁で煮込んだ料理です。「はっと」は、その美味しさから農民が小麦料理を好むあまり、米を作らなくなっては困ると殿様が「ご法度」にしたのが語源であるといわれています。特に宮城県登米地方では、具に名産の油で揚げた麩「油麩」を加えたものが親しまれているそうです。「つゆはっと」を食べて体を温め、寒い冬を乗り越えましょう。

 

つゆはっと 1人分:エネルギー 250kcal たんぱく質4.6g 塩分2.7g
材料 (2人分) 作り方

●小麦粉 70g
●鶏肉 60g
●人参 30g
●椎茸 30g(2個)
●大根 60g
●油揚げ 16g(1/2枚) 
●三つ葉 適量
●かつお出汁 2と1/2カップ
●醤油 大さじ2
●みりん 大さじ1

  ① ボウルに小麦粉を入れ、水を加えて耳たぶ位の柔らかさにこねる。
  ② 鶏肉は1口大、油揚げは短冊切り、大根と人参はイチョウ切りにし、椎茸は石づきを取って5mm幅に切る。
  ③ 鍋にかつお出汁を入れ、②で用意した肉・油揚げ・野菜類を煮る。
  ④ 野菜に火が通ったら、①を薄くのばし、一口大にちぎって③の鍋に入れる。表面が透き通ってきたら、醤油とみりんを加える
  ➄ 器に盛り、食べやすく切った三つ葉を散らす



 

2021年01月01日

コロナ禍で新年を迎えて

(この記事は2021年1・2月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 看護部長 佐伯  昭子


 


 新年あけましておめでとうございます。

 

 昨年は日本でオリンピックが開催され活気ある年となるはずでした。新型コロナウイルスの感染症がこれほど影響を及ぼすとは、誰も想像していなかったと思います。我々医療従事者は物資が
十分に無い中、未知の感染症と戦う厳しい状況となり、治療薬やワクチンができるまで気を緩めることができない日々が続いています。
 以前から医療業界は少子高齢化社会への対策として、健康寿命の延伸・増加する認知症への対応・多死社会に向けたアドバンスケアプランニングなど、多くの課題に取り組んでいました。これらを見据え、看護協会は看護職の確保と変化する社会への対応能力の向上のため、健康で働き続けられる職場環境づくりや継続教育などに力を入れています。当院でも看護職員が働き、学習できる環境を整えながら、院外でも活躍できる認定看護師を増やし、また入退院支援も強化し、患者さんの入院前・入院中・退院への支援をシームレスに行っていきたいと思っております。新型コロナウイルス感染症対策が加わってしまい、問題は山積していますが、地域貢献できるよう一層取り組んでまいります。本年も何卒よろしくお願いいたします。

2021年01月01日

新年あけましておめでとうございます。

(この記事は2021年1・2月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
画像診断センター長
放射線科 部長
山川 稔隆

 昨年5月、西陣病院画像診断センターのMRIが新機種に更新されましたのでこの場をお借りして紹介させていただきます。
 昨今、テレビや新聞では、AI(人工知能)や機械学習といったキーワードがトレンドで、毎日のように耳にしますが、今回導入したキャノン製1.5テスラMRIにもディープラーニングを用いた最新技術が搭載されています。原理的なことは難しいので割愛させていただきますが、要は、短時間でノイズの少ない、きれいな画像を撮影することができます。また、MRIでは患者さんにトンネルの中に寝ていただいて撮影するのですが、そのトンネルが従来よりも広くなり、検査中の圧迫感が少なくなっています。さらに検査中にはトンネルの壁面に映像が写る機能が標準装備されています。検査中にその映像を見ていただくことで、患者さんにはリラックスした状態で検査を受けていただけるようになりました。CTや超音波検査と比べてMRIは検査時間も長く、窮屈な姿勢で受けていただかないといけないのですが、新しいMRI装置ではそういった負担を少しでも軽減して、楽に検査を受けていただけると思います。
 画像診断センターでは今後も患者さんにとって負担が少なく、診断・治療に役立つ画像検査を提供させていただきます。よろしくお願いいたします。

2021年01月01日

西陣病院における 泌尿器科医の役割

(この記事は2021年1・2月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 副院長
今田 直樹

 

 

 2020年は全世界が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に翻弄される年となりました。この事は、残念ながら現在も継続されています。西陣病院におきましても最良の対策をもってCOVID-19に挑んでおりますが、有効なワクチンの普及で、一日も早く収束することを願っております。

 

 さて、ご存知のように泌尿器科のスタートは皮膚泌尿器科でした。その後、尿に関連する臓器を扱う科として独立し、今や日本人男性の最多の癌(前立腺癌)を扱うまでになりました。2013年ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術、2016年ロボット支援下腎部分切除術が保険収載されてからは、前立腺癌、早期腎癌の開腹手術はそちらに移行しています。最新の放射線療法としての前立腺癌陽子線治療も京都府立医科大学で可能となり、保存的治療面では、ここ数年で注射剤、内服剤とも新薬が次々に承認され、多彩な組み合わせによる治療選択が可能となりました。当院では前立腺肥大症に対しては前立腺蒸散術の器機を一昨年に導入し、良好な成績を上げています。透析医療に関しては、より多くの尿毒素を抜くための方法として水道水から浄化して作製した水を患者さんの体内に入れつつ同時に透析もするオンライン血液透析濾過法を早期より取り入れ順次変更しております。日々進化する新しい技術の導入、習得、新しい知識の蓄積を兼ね備えることに努力を惜しむことはありません。
 西陣病院 腎臓・泌尿器科では、泌尿器悪性腫瘍に対する治療はもとより、前立腺肥大症、尿路結石(腎、尿管、膀胱)症、尿路感染症、慢性腎臓病、約400名を有する透析医療等々に主軸を置き今後とも最善の治療の提供をさせていただく所存でございます。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

2021年01月01日

新年のごあいさつ

(この記事は2021年1・2月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 院長 葛西 恭一


 

新年あけましておめでとうございます。

皆様には、さわやかな新春をお迎えのことと心よりお喜び申し上げます。皆様のご協力・ご支援により無事に新しい年を迎えることができました。職員一同より皆様への感謝を申しあげますとともに、新しい年が皆様にとって素晴らしい年となりますよう祈念いたします。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、1年前の2020年1月に国内で初の感染者が確認されました。以来、2020年は日本・世界がこの未知のウイルスに翻弄され続けた年となりました。当初はこの未知のウイルスに対する感染対策や治療法等すべてが手探りの状態であり、皆様も我々医療者も不安な日々を過ごすこととなりました。特に当院はリスクが高いとされる多くの高齢の患者さんや透析患者さんを診療している医療施設であるため、院内でCOVID-19が発生しないように職員一丸となって感染対策に取り組んでまいりました。このため、外来診察や検査のために当院へ来院された患者さんには、検温や問診の徹底、手指消毒やマスクの着用などにご協力いただきました。また、入院患者さんに対しては面会禁止を継続せざるを得ない状況が現在も続いており、患者さん・ご家族ともに大変不安で不自由な思いを強いております。幸い、今のところ入院中の患者さんに COVID-19の発症はありません。これも当院の感染対策に対する皆様のご理解・ご協力によるものと深く感謝しております。今後は有効で安全なワクチンや治療薬が開発・実用化され、皆様が安心して生活できる状態に1日も早く戻ることができるよう願っております。
 本年も当院の基本方針である「地域に密着した良質な医療を提供する」という目標は変わりません。従来通り、一般診療と透析医療を中心に大病院に引けをとらない高いレベルの医療を提供するとともに、急性期病棟、地域包括ケア病棟、障害者病棟を有する当院の特徴を生かし、患者さん個々の療養状況に応じたきめ細かい医療を提供してまいります。また、医療社会福祉課や入退院支援室を中心とした福祉・入退院支援にもこれまで同様注力していく所存です。
 「withコロナ」とも呼ばれる新たな時代の幕開けとなるであろう2021年を迎えますが、当院はぶれることなく、地域の患者さんや開業医の先生方との繋がりを大事にすることで地域に愛される病院となるよう引き続き努力してまいりますのでよろしくお願いいたします。

2021年01月01日

日本列島 ”食” めぐり「鹿児島県」

(この記事は2020年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

栄養科 管理栄養士 安井 裕香

全国各地の特色ある料理や名物をご紹介していきます

 

からいもねったぼ

からいもねったぼとは、お餅にさつまいもを練りこんで食べる鹿児島県の郷土料理です。お正月のお餅をつく際、最後の一くぼ(もち米一臼分)に、蒸したさつまいもを入れてつきあげる年末のおやつとして食べられていました。「からいも」とは、さつまいものことで、琉球を通して中国(唐)からきた芋という意味を持ちます。「ねったぼ」とは、練ったぼたもちや、ぼったぼったと練ってつくところからその名がついたと言われています。

(1人分)エネルギー 260kcal/たんぱく質6.5g/塩分0.0g

材料 (2人分) 作り方
さつまいも 150g(大きめ半分)
切り餅 50g(1個)
きな粉 25g
砂糖 25g
  1. さつまいもの皮をむき、3cm角くらいの大きさに切り、水にさらしておく。
  2. 切り餅1個を6等分程度に切り分ける。
  3. きな粉、砂糖をはかり、バッドに混ぜあわせておく。
  4. 水さらし後のさつまいもをさっと洗い、鍋に入れ、ひたひたの水を加え茹でる。
  5. さつまいもが柔らかくなったら、その鍋に切り分けた餅を入れ茹でる。さつまいもと餅が 柔らかくなったら、火を止め鍋の湯を捨てる。
  6. 鍋ごと布巾の上に置き、すりこぎでさつまいもと餅を潰し滑らかになるまで混ぜてつく。
  7. 手順3でバッドに準備したきな粉の上に流し、きな粉をまぶしながら丸める。

 

2020年11月01日

市販の風邪薬について

(この記事は2020年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

薬剤部 主任 福本 郁子

日に日に気温が下がり、空気が乾燥し始めています。くしゃみ・鼻水、咳など風邪の症状はありませんか? 今回は、市販の風邪薬についてのお話です。

市販の風邪薬(総合感冒薬)とは

熱や頭痛、鼻水、咳といった風邪の初期症状を和らげる薬です。風邪を治す薬ではなく、すでに現れている症状を緩和させる目的で、複数の有効成分が配合されています。
製品ごとに有効成分は様々で含有量も異なりますので、症状に合わせて購入することができます。

主な成分

1. 解熱・鎮痛薬
●アセトアミノフェン、イブプロフェン、アスピリンなど…熱を下げたり、喉の痛みや頭痛を和らげる

2. 抗ヒスタミン剤
●マレイン酸クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど…鼻水・くしゃみを和らげる

3. 鎮咳・去痰剤
●コデイン、ジヒドロコデイン…咳を止める
●アンブロキソール、カルボシステイン…痰を出しやすくする
●メチルエフェドリン…気管支を拡げる

4. その他
●トラネキサム酸、塩化リゾチーム…炎症を抑える
●生薬成分(ゴオウ、ケイヒ、ショウキョウ、カンゾウ)…熱を下げたり、咳を止める<
●カフェイン…眠気を予防したり、疲労感や頭痛を和らげる
この他にも、多くの種類があります。

注意点

  • 眠気や口の渇き、便秘を引き起こすことがあります。
  • 緑内障や前立腺肥大の症状を悪化させる成分もあるため、疾患によっては服用できないことがあります。
  • 病院で処方された薬を服用している場合、全く同じ成分や同じ効果を期待する成分が重なってしまうことがあります。
  • 購入されるときは、服用している薬や疾患、アレルギー歴などを薬剤師に伝えてください。

数日服用しても症状が改善しないときは、医療機関を受診してください。

2020年11月01日

「人生会議」してみませんか

~もしものとき、自分らしく最期を迎えるために~

(この記事は2020年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

外科主任部長
福本 兼久


「人生会議」ってご存知ですか?

もしかすると、厚生労働省のホームページやポスターで目にしたり、病院で耳にしたりしてご存知の方もおられるかもしれません。「人生会議」とは、「人生の最終段階における医療・ケアについて繰り返し話し合うプロセス」のことで、厚生労働省が普及のために定めた愛称です。海外では、以前から、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」として取り組まれていましたが、2018年からは日本でも積極的に取り組まれるようになってきました。

具体的には、もしものときに備え、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、その家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の意思決定を支援する過程のことで、本人の人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化することを目標としています。

人は誰でも、いつでも、命に関わる大きな病気や怪我をする可能性があります。そのような時、命の危険が迫った状態になると、約70%の方が、医療やケアなどを自分で決めたり、自分の望みを人に伝えたりすることができなくなると言われています。そこで、もしものとき、自らが希望する医療やケアを受けるために、大切にしていることや望んでいることを、自分自身で前もって考え、ご家族や周囲の信頼する人 たちと話し合い、共有することが大事です。

最近よく「終活」という言葉を耳にするようになりましたが、みなさんはどのようなイメージでしょうか。一般的には、お墓やお金、葬儀などの事前準備、エンディングノートの作成などでしょうか。そこに、自分の最期の時に、どんな風に過ごしたいかということを考え、大切な人と共有する「人生会議」を加えると、より現実的な「終活」ができるかもしれません。

では、どのように「人生会議」を行えばよいのでしょうか。厚生労働省のホームページにもありますが、以下のような手順で考えていくとわかりやすいです。

 

Step1 あなたの大切なこと、希望について考えてみましょう。

例えば、生きることができる時間が限られているとしたら、あなたはどんなことを大切にしますか。家族や友人と過ごす時間でしょうか。それとも、仕事を続けることでしょうか。または、自分の好きなことをすることでしょうか。個人には個人の考え方があり、それぞれが違う考えだと思います。

Step2 あなたの健康について考えてみましょう。

すでに何かの病気で病院にかかっておられる方であれば、かかりつけ医や病院の担当医に、あなたの病気について相談し、その病気で将来どうなるのかを教えてもらいましょう。もし、がんで闘病中の方であれば、治療をどのような状態になるまで続けるのか、自分らしく生活ができなくなるような治療は希望しないのか、治療はできなくなってもできるだけ苦痛は取り除いて欲しいのかなど、病状によって様々な考え方があると思います。

Step3 あなたの信頼できる人、もしものとき、代わりに意思決定をしてくれる人を選びましょう。

誰でも予期できないできごとや突然の病気で、自分の希望を伝えることができなくなるかもしれません。そんな時、あなたの代わりにあなたの意思を伝えてくれる人を選んでおくことが必要です。あなた自身のことをよく理解してくれている家族や友人で、どんな状況でもあなたの希望や思いを尊重して判断してくれる人を選びましょう。ただし、法的な権利はなく、財産分与などにはかかわりません。

Step4 あなたの希望や思いを、医療・介護従事者に伝えておきましょう。

Step1~3で話し合い、決めた内容を事前に医療・介護者に伝えておくことが大事です。

あなたの望んでいる医療やケアの内容と、医療・介護従事者の考える、あなたにとって一番良いと思われる内容が食い違った時は、担当医はとても判断に迷います。そのようなことを避けるためにも、もしものときに、あなたの信頼できる家族や友人にどれくらい任せるのか、あなたの望んでいたことと、あなたの信頼できる家族や友人の考えが違う時は、どうして欲しいかも考えておくと良いでしょう。これは、あな たの希望がより尊重されるようにするためです。

 

いかがでしたでしょうか。「人生会議」が、自分の人生を自分らしく終えるために、もしものときについて話し合う機会になればと思います。人の気持ちが変わることはよくあることです。一度だけではなく、何度も信頼できる家族や友人、医療・介護従事者と話し合いましょう。あなたの希望や思いは、いつでも、何度でも訂正することはできます。

終末期という言葉は、がん患者さんに対してよく使われますが、がん患者さんだけではなく、誰にでもいつか人生の最期はやってきます。その時に、いい人生だったな、自分らしい最期を迎えられたな、と思えるように、人生の節目にご家族や近しい人と「人生会議」をしてみてはどうでしょうか。

当院では、あなたの「人生会議」のお手伝いができるように、「あなたの思いをきかせてください」という事前申出書を作成し、配布しています。入院される方やこれから治療を受けられる予定の方にお渡ししていますので、ぜひご活用ください。

2020年11月01日