(この記事は2018年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
五十肩という言葉をよく耳にされると思いますが、みなさんはどのようなイメージを持っておられるでしょうか。「少し年をとって肩が痛むだけ・動きが悪くなるだけ」、「放っておいてもすぐ治る」と思っていませんでしょうか。今回は、五十肩について、その言葉の由来から治療まで述べさせて頂きました。少しでも五十肩の知識を深め、症状に気づいた際には、早めに整形外科を受診して頂ければ幸いです。
五十肩は、専門的には主に肩関節周囲炎といわれ、中高年を中心に肩の痛みと動きの制限をきたす症候群です。日本では、江戸時代の国語辞典に「凡、人五十歳ばかりの時、手腕、骨節痛むことあり。程すぐれば薬せずして癒ゆるものなり。俗に之を五十腕とも五十肩ともいう。」と記載され、古くから自然に治る病として広く知られています。しかし、発症して長期間が過ぎても、約半数の方には何らかの症状が残っているという報告もあり、必ずしも自然に治る疾患ではありません。
五十肩の詳細な病態はいまだ明らかではありませんが、40~65歳、女性、デスクワーカーに多い傾向があります。その他、同側乳房手術後、頚椎疾患、糖尿病、甲状腺疾患、心疾患、肺疾患、腎障害、神経・脳血管疾患、自己免疫性疾患、精神疾患などのさまざまな疾患に起因すると言われています。特に「糖尿病」患者では頻度が高く、治りにくいとの報告があります。
はじめの主な症状は、「肩が痛い」、「肩が動かしにくい」の2つであり、肩関節の加齢による変性や血行障害を基盤として、運動不足や姿勢の悪さ、日常生活動作での繰り返す軽い負荷が加わり発症するとされています。
典型的には凍結(炎症)期、拘縮期、解凍(回復)期の順に経過します。凍結期では、強い肩の痛みを特徴とし、運動時だけでなく、安静時も夜寝ている時も痛みを生じることがしばしばみられ、動きも制限されてしまいます。拘縮期では、痛みは減ってきますが、動きが著しく制限されます。解凍期では、動きの制限が改善されてきます。通常は、発症して1~2年以内で日常生活に支障がない程度まで改善すると言われており、比較的長い期間治療を要することが多いとされています。
画像診断では、レントゲンやMRI が主に行われます。MRIで関節内の炎症を認めることはありますが、特徴的な所見はなく、異常を認めないことが多くみられます。肩の痛みをきたす疾患は多くあり、それらを画像などで除外し、五十肩の診断に至ります。
治療には保存療法および手術療法があります。基本的に保存療法が選択され、手術療法を行うことはまれです。痛みが強い凍結期には、痛みを伴う動作を禁止し、安静のために三角巾などで固定を行う場合があります。また、痛みの程度に応じて消炎鎮痛剤や筋弛緩剤、安定剤などの薬物療法、ヒアルロン酸やステロイドなどの関節内注射を行います。痛みが軽減してくる拘縮期・解凍期では、痛みに合わせて薬物療法や注射療法を継続しながら、肩を動かすリハビリテーションを行います。リハビリテーションは作業療法士により行われ、当院でも現在4名の作業療法士が日々診療に従事しています。御自身での自主的な運動も重要であり、両側生じてしまう方もおられるため、悪い方だけでなく、よい方の肩も同じように運動することが大切です。
当院作業療法士スタッフ
最近では、発症後早期に、外来で超音波をみながら頚の神経をブロックし、痛みを感じないようにした状態で、医師により肩を動かす授動術を行う治療も広まっています。上腕骨骨折や脱臼・神経損傷といった合併症もありますがまれであり、この治療により早期に痛みや動きが改善することが多く、有効な治療法とされています。
3~6ヵ月の保存療法で症状の改善がみられない場合、手術療法が選択されます。関節鏡を用いた鏡視下関節包切離術が主に行われます。1cm 未満の小切開を2~3ヵ所行うだけの小さな侵襲で手術が可能であり、かたく癒着し、動きが悪くなった組織を切り離していきます。術後は、早期からリハビリテーションを行い、痛みの軽減や動きの改善をはかります。
発症を予防するには、普段から適度に肩の運動を行うこと、猫背などの悪い姿勢にならないこと、糖尿病などの基礎疾患を悪くしないことが大切です。
五十肩はそのまま放っておかれる方もしばしばおられますが、決して自然に治るわけではありません。また、同じような症状をもつ方の中には、五十肩ではない肩関節疾患を認める場合も多くみられます。前述した症状がある場合は、ぜひ整形外科を早めに受診して下さい。