西陣病院だより

ロコモと骨折

(この記事は2024年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

整形外科 医長
下島 康太



「ロコモティブシンドローム」皆さんはこの言葉を聞いたことがありますか。ロコモティブシンドローム(ロコモ)と骨折は、健康と生活の質に密接に関連する重要な問題です。ぜひ、自分自身やご家族の方などを思いながら一読いただければ幸いです。

 

「ロコモティブシンドローム」皆さんはこの言葉を聞いたことがありますか。ロコモティブシンドローム(ロコモ)と骨折は、健康と生活の質に密接に関連する重要な問題です。ぜひ、自分自身やご家族の方などを思いながら一読いただければ幸いです。

 ロコモティブシンドローム( Locomotive Syndrome、略してロコモ )は、骨、関節、筋肉、神経などの運動器の障害により「立つ」「歩く」といった基本的な移動機能が低下した状態を指します。この概念は、2007年に日本整形外科学会によって提唱され、高齢化社会における健康問題として注目されています。ロコモの主な原因は、運動器の疾患や障害です。代表的な疾患には、骨粗鬆症、変形性関節症、脊柱管狭窄症、筋力低下(サルコペニア)などがあります。これらの疾患や障害が進行すると、日常生活での移動や動作の困難さから要介護状態になったり、転倒や骨折を引き起こしたりするリスクが高まります。
 骨折とは、文字通り骨が折れることです。骨の連続性が途切れることを指し、粉々になっているものから、ひび割れや骨が潰れているものなども含めて整形外科の領域では骨折と呼びます。一般的には外部からの強い力によって発生しますが、高齢者に多いのが脆弱性骨折と呼ばれる骨折です。これは骨密度の低下や骨の質の低下によって骨が弱くなり、日常的な動作や軽微な転倒でも骨折が生じるものです。骨折のリスクは年齢とともに増加し、特に閉経後の女性は骨密度が急激に低下するため、骨粗鬆症に伴う骨折のリスクが高くなります。骨折が起きた場合、日常生活に制限が生じることも少なくありません。長期間の安静や活動制限などから筋力やバランス能力がさらに低下し、さらにロコモが進行してしまうだけでなく、痛みや不安感が精神的な健康にも悪影響を及ぼすこともあります。
 このようにロコモと骨折は相互に関連し合う問題であり悪循環を引き起こすことがあります。骨折によって運動機能が低下し、それがロコモの進行を促進する一方、ロコモによる筋力やバランスの低下が転倒や骨折のリスクを高めます。特に高齢者では、この悪循環が要介護状態への移行を加速させることがあります。例えば、股関節周囲の骨折(大腿骨近位部骨折)は手術や長期間の入院リハビリテーションを必要とし、場合によっては歩行能力の喪失や介護の必要性を伴うこともあります。当院でも同部位の骨折患者さんはたくさんいらっしゃいますが、その多くが骨粗鬆症や筋力低下、関節変形などを背景としたロコモを来しているように思われます。
 「 最近、関節が痛いんだけど大丈夫かな?」「骨粗鬆症やロコモになってないかしら?」など運動器でお困りの方はぜひ一度整形外科でご相談してください。

 

 

 

 

 

2024年09月01日

転倒して痛い時は迷わず整形外科へ

(この記事は2022年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

整形外科 医員
中村 恵



 日本は超高齢化社会となり、転倒し整形外科を受診される方が増えています。骨折は場合によっては生活レベルを大きく落とす可能性があり、適切な治療が必要です。今回は生活レベル、骨折の診断および治療の流れについて簡単に説明させていただきます。

 

 2020年の日本人の平均寿命は男性が 81.64歳、女性が87.74歳と年々更新しており、超高齢化社会となっている現状です。平均寿命が伸び続けている中で重要であるのが日常生活動作( Activities of Daily Living 以下ADL)です。ADLには基本的日常生活動作( basic ADL: BADL)と手段的日常生活動作( instrumental ADL : IADL )があり、特にBADLは日常生活における基本的な着替え、食事、トイレ、移動、風呂・整容といった動作のことを指し、生活レベルに大きく関わってきます。整形外科的にADLの低下の主な原因として骨折があります。超高齢化社会による骨粗しょう症の増加、また筋力低下による転倒などの外傷の増加により骨折は高齢者でよくみられる疾患となっています。人の体には約200本の骨があり、骨折をすると身体的な機能の低下につながり、ADLの低下につながります。骨折は骨折部位、骨折の形状、年齢、性別、生活背景により治療方針が異なり、その患者様に適した治療が必要です。骨折の診断の流れとしては、まずは問診、痛い部位の診察、それに応じた単純レントゲン検査をメインとした画像検査を施行致します。明らかな骨折があった場合は、それに応じて必要であればCT・MRI検査などのさらに詳しい検査を施行致します。単純レントゲンではわからない骨折もあるため、痛みや腫れが強く疑わしい場合は同様にさらなる精査を行います。検査が終わると、治療方針を決定します。骨折の治療には手術による治療、手術をしない保存療法に大きく分けることができ、手術が望ましい場合はそれに向けた準備を、保存療法が望ましい場合は三角巾、ギプス・コルセットなどを装着し定期的に外来でフォロー致します。 手術を選択する理由としては、転位(ずれ)が大きく骨が癒合せず疼痛が持続する可能性が高い寝たきりにならないよう早期離床および歩行訓練が望ましいもの(大腿骨の骨折など、③痛みを軽減するため、などが挙げられます。

 ただ、私たちが簡単に手術といっても、患者様の立場からすると手術は非常に怖いものであることが多く、しっかりと患者様の立場にたってご理解いただけるような説明をすることを心掛けております。骨折は診断が遅れると治療が困難になることもあり、ADLの低下を避けるためにも早期診断、早期治療が望ましいです。ですので、怪我をして痛い、腫れていることがあれば迷わず整形外科を受診してください。そして日常生活レベルを落とさないよう一緒に治療していきましょう。

 

 

 

 

2022年07月01日

転倒して股関節が痛ければ(整形外科より)

(この記事は2021年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

整形外科 医員
岩井 義之



 
 日本は近年超高齢社会となってきました。転倒し病院受診をされる方が多くいらっしゃいます。転倒して生じうる骨折としては統計的に①大腿骨近位部②脊椎③手関節が多いとされています。今回はその中でも①大腿骨近位部の骨折についてご説明させていただきます。
 大腿骨は近位部、骨幹部、遠位部の 3 つに分かれます。今回お話する近位部は、体に近い股関節周囲を指します。骨盤にはまり込む丸い部分を骨頭、細くなっている頸部、ふくらみのある転子部、となっています。高齢者の転倒で生じる骨折は大腿骨頸部/転子部骨折が多いとされています。

 

 日本の老年人口は 2020 年には 3,590 万人、2030年には3,667万人、ピークに達する2042年には 3,863 万人になると推計されています。したがって2020年には約25万人、2030年には約30万人、2042年には約32万人の大腿骨頸部/転子部骨折が発生するとされ、日常的に多い骨折となっています。骨折が生じた際は痛みで歩けなくなる方が多いです。レントゲンで判明することが多いですが、不顕性骨折といって転位がない骨折で、レントゲンでは判明せず、MRIなどの精密検査で診断がつくこともあります。その場合は痛いながらも歩けることもあります。不顕性骨折は後々転位することも多く、手術加療となる場合があるため、早期発見が大切です。

 一般的にどの骨折も治療は大きく分けて2つです。手術か、ギプスなどの保存加療です。治療法は部位や折れ方によって変わります。大腿骨は歩行に大きく関与し、歩行できる方については積極的な手術加療を勧めています。保存加療では、痛みで寝たきりとなり、筋力低下し、歩行能力が見込めないことがよくあります。リハビリを行えば立位動作が可能となる方もいらっしゃいます。寝たきりや車いすでの生活が主な方は保存加療を選択される場合もあります。
 転倒後無理して生活され、骨折部が大きくずれることでより難しい手術になることがあります。先ほどの不顕性骨折のこともあわせ早期発見が大切です。転倒し、股関節部の痛みが強い場合は無理なさらず、早期の病院受診をお願いします。 患者さん一人一人に合わせた最適な加療ができるよう、日々研鑽を積んでおります。転倒し困った方がいらっしゃれば、お気軽に当院にご相談ください。

2021年05月01日

骨粗鬆症性椎体骨折(整形外科より)

(この記事は2020年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

整形外科 部長
北中 重行



 骨粗鬆症性椎体骨折とは、骨粗鬆症に起因する背骨の骨折のことです。胸椎と腰椎の移行部あたりの椎体に生じることが多く、転倒、尻もちなどの外力により生じるもの、中腰や重いものを持った際に生じるもの、さらにはいつのまにか骨折とテレビ CM でも放映されていたように知らない間に生じるものもあります。

 

 骨粗鬆症が進行し骨が弱くなって生じるものは、疼痛が軽度のこともあります。いつのまにか骨折はその典型と言えるかもしれません。転倒、尻もちなどの明らかに外力が加わったものでは、通常は骨折の生じた部位の疼痛を伴うことが多いですが、まれに骨折部位とはやや離れた箇所の疼痛を訴える方もおられます。診断は、基本的にはX線(レントゲン)検査を行うことで確定します。ただX線で分かりにくいこともあり、CTやMRI検査が必要になることもあります。また骨粗鬆症の程度をみるために骨密度も測定します。
 治療は、疼痛がある程度軽度な場合は、コルセットを装着し、外来で経過観察、保存療法を行います。1~2週間に1回の受診(徐々に受診頻度を少なくしていきます)で経過を診させて頂き、
約2~3か月ほどで治る方が多いです(図①)。疼痛が強く歩行困難な場合は、入院して頂くこともあります。疼痛の程度にもよりますが、基本的にはベッド上安静ということはなく、コルセットを装着し、リハビリテーションで早期離床、歩行訓練を行っていきます。

 このように基本的に第一選択は、手術療法ではなく、ほぼすべての症例で保存療法となります。コルセットの採型、装着を行い、鎮痛剤などで疼痛コントロールをしながら、骨粗鬆症の治療も併せて行います。骨粗鬆症の治療薬剤は日進月歩で、様々な内服薬、注射製剤が存在しています。現在明確な選択基準はありませんが、個々の患者さんに合わせた薬剤の選択、投与を行っています。一度骨折が生じると、続いて骨折することが多く、このような骨折の連鎖を抑制しうる薬物治療は非常に重要になってきます。
 多くの場合はこうした保存療法で改善が見込めますが、早期に手術が必要になることもあります。例えば、骨折によって神経が圧迫され神経症状(下肢痛や筋力低下、膀胱直腸障害など)が出
現している場合、骨折部の不安定性(グラつき)(図②)があるために腰痛が強く体動困難な場合などは早期手術の適応になってきます。
 また保存療法で症状の改善を認めない場合、例えば、経過中に骨癒合せず偽関節(骨折部がひっつかずにグラグラした状態)(図➂)となり、疼痛がいつまでも残り日常生活に支障を来す場合には手術が必要になってきます。

 手術療法も日進月歩で手技が開発されており、当科では経皮的椎体形成術、BKP(balloon kyhoplasty)や最小侵襲脊椎安定術MISt(minimally invasive spine stabilization)といった低侵襲手術
を導入し、早期離床、早期社会復帰、早期家庭復帰を目指して取り組んでいます。
 当科では患者さん、御家族さんの意欲、意思を尊重し、保存療法、手術療法を含む全ての骨粗鬆症治療を積極的に行っておりますので、椎体骨折に関わらず、骨粗鬆症に関しても何か気になることがありましたら、いつでもお気軽に御相談頂ければ幸いです。

2020年05月01日

変形性股関節症について

(この記事は2019年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 整形外科 部長 牧之段 淳

整形外科 部長
牧之段 淳






動き始めや歩き始めにももの付け根に違和感があったり痛んだりあるいは靴下が履きにくいなどの症状はありませんか?年齢を重ねるにつれて強くなる股関節の痛みがあれば変形性股関節症かも知れません。原因は「臼蓋」と呼ばれる股関節の屋根が小さく大腿骨頭のかぶりが浅い「臼蓋形成不全」があることが多いです。一度関節軟骨が傷むと回復することは難しく次第に変形が進みます。

 

治療はまず痛みがある時は消炎鎮痛剤を飲んだり、安静にしたりしますが消炎鎮痛剤は胃腸を荒らしたり腎臓に負担がかかったりするので主に急性期に使用し3ヵ月以上経過した慢性期には他の痛みを抑える薬を使うことが一般的になってきました。他の治療法としては運動療法、温熱療法、装具療法などがあります。変形性股関節症では徐々に股関節の動きが悪くなっていくためストレッチや股関節の動きを拡大するリハビリを行ったり筋力を強化したりします。プールなど水中で歩くことは浮力を生かして股関節の負担が減るためお勧めです。

装具療法では歩行時に杖を使用していただき股関節にかかる負担を減らします。片足で立った時には体重の約3倍の力が股関節にかかると言われています。ですから例えば10kg 減量すればその3倍の30kg の負担が減ることになります。以上のような保存的治療を行っても痛みが強く日常生活に支障が生じる場合は手術を考えます。
50歳までの方は関節を温存する手術を考慮しますが現在では痛みを最も確実にとることのできる人工股関節全置換術を行うことが多くなっています。日本では年間6万件を超える人工股関節全置換術が行われております。脱臼、感染、肺梗塞および骨折などの合併症が合せて数%あり慎重に行う必要がありますが人工股関節の成績は向上してきており15年から20年程度は持つようになってきています。平均寿命も女性で87歳、男性で81歳と伸びてきていますが70歳以上であれば1回の人工関節手術で済む計算になります。手術後は翌日から歩行器を用いて歩き始め、術後3-4週間で1本杖をついて自宅に退院されております。術後3ヵ月も経過するとほとんど痛みはおっしゃられなくなられることが多いです。

痛みが股関節であれば分かりやすいのですがお尻の痛みや大腿の痛み、しびれ感を訴える方もおられます。実際には腰椎からの坐骨神経痛と紛らわしく股関節のレントゲンやMRIを撮影しないと分からないことも少なくありません。ももの付け根の痛みでお悩みの方は毎週木曜日に股関節外来(予約制)を開いておりますのでご気軽にご相談下さい。

2019年09月01日

骨密度検査と骨粗鬆症の治療について

(この記事は2019年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院 整形外科 医長 森 裕貴

整形外科 医長
森 裕貴



骨粗鬆症は骨の強度が低下してもろくなり、骨折しやすくなる病気です。
骨粗鬆症による脆弱性骨折が生じると、生命予後や身体機能が低下することが知られています。健康寿命を延ばすためには早期に骨粗鬆症の治療を開始し、骨折を予防することが重要です。

 

骨粗鬆症の患者は約1,300万人(女性1,000万人、男性300万人)と推測され、骨粗鬆症の結果として生じる骨折も増加しています。女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏、加齢、運動不足などの生活習慣が骨強度の低下する主な要因とされています。

骨粗鬆症の治療を開始する前に、まずは骨密度を測定することが重要です。当院では腰椎と大腿骨の2つの骨密度をDXA 法で測定しています。検査は苦痛を伴わず、短時間で行えます。原則1年に1回、特に女性では40歳頃から骨密度を測定することが推奨されています。検査を施行された方は、特に『若い人と比較した値(YAM)』に着目してください。多くの場合、YAM が70%以下で骨粗鬆症と診断されます。しかし、椎体骨折や大腿骨近位部骨折の既往があれば骨密度と関係なく骨粗鬆症に対する治療が必要です。

 

初期の骨量減少であれば、食事(Ca の摂取)、運動、日光浴などを行うことで骨量の増加が期待できますが、多くの方は薬物治療が必要です。治療薬は大きく分けて、骨吸収を少なくする薬(骨吸収抑制薬)、骨形成を助ける薬(骨形成促進薬)、Ca の吸収量を増やす薬(骨・Ca代謝調整薬)の3種類があります。現在、最も多く処方されている治療薬は骨吸収抑制薬であるビスホスホネート薬です。ビスホスホネート薬は有効である一方、内服時の注意点(起床後すぐに内服、服用後30分は横にならず、食事もさける)があるため、服薬が継続できない方もいます。半年や1年に1回の注射製剤も誕生しており、自分にあった治療薬を選択し、治療を継続していくことが最も重要です。

 

骨密度が気になる方や骨折の既往がある方は、ぜひ一度整形外科を受診してください。

 

 

2019年03月01日

五十肩(肩関節周囲炎)について

(この記事は2018年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

西陣病院、整形外科 医長 祐成 毅

整形外科 医長
祐成 毅

五十肩という言葉をよく耳にされると思いますが、みなさんはどのようなイメージを持っておられるでしょうか。「少し年をとって肩が痛むだけ・動きが悪くなるだけ」、「放っておいてもすぐ治る」と思っていませんでしょうか。今回は、五十肩について、その言葉の由来から治療まで述べさせて頂きました。少しでも五十肩の知識を深め、症状に気づいた際には、早めに整形外科を受診して頂ければ幸いです。

五十肩は、専門的には主に肩関節周囲炎といわれ、中高年を中心に肩の痛みと動きの制限をきたす症候群です。日本では、江戸時代の国語辞典に「凡、人五十歳ばかりの時、手腕、骨節痛むことあり。程すぐれば薬せずして癒ゆるものなり。俗に之を五十腕とも五十肩ともいう。」と記載され、古くから自然に治る病として広く知られています。しかし、発症して長期間が過ぎても、約半数の方には何らかの症状が残っているという報告もあり、必ずしも自然に治る疾患ではありません。

五十肩の詳細な病態はいまだ明らかではありませんが、40~65歳、女性、デスクワーカーに多い傾向があります。その他、同側乳房手術後、頚椎疾患、糖尿病、甲状腺疾患、心疾患、肺疾患、腎障害、神経・脳血管疾患、自己免疫性疾患、精神疾患などのさまざまな疾患に起因すると言われています。特に「糖尿病」患者では頻度が高く、治りにくいとの報告があります。

はじめの主な症状は、「肩が痛い」、「肩が動かしにくい」の2つであり、肩関節の加齢による変性や血行障害を基盤として、運動不足や姿勢の悪さ、日常生活動作での繰り返す軽い負荷が加わり発症するとされています。

典型的には凍結(炎症)期、拘縮期、解凍(回復)期の順に経過します。凍結期では、強い肩の痛みを特徴とし、運動時だけでなく、安静時も夜寝ている時も痛みを生じることがしばしばみられ、動きも制限されてしまいます。拘縮期では、痛みは減ってきますが、動きが著しく制限されます。解凍期では、動きの制限が改善されてきます。通常は、発症して1~2年以内で日常生活に支障がない程度まで改善すると言われており、比較的長い期間治療を要することが多いとされています。

画像診断では、レントゲンやMRI が主に行われます。MRIで関節内の炎症を認めることはありますが、特徴的な所見はなく、異常を認めないことが多くみられます。肩の痛みをきたす疾患は多くあり、それらを画像などで除外し、五十肩の診断に至ります。

治療には保存療法および手術療法があります。基本的に保存療法が選択され、手術療法を行うことはまれです。痛みが強い凍結期には、痛みを伴う動作を禁止し、安静のために三角巾などで固定を行う場合があります。また、痛みの程度に応じて消炎鎮痛剤や筋弛緩剤、安定剤などの薬物療法、ヒアルロン酸やステロイドなどの関節内注射を行います。痛みが軽減してくる拘縮期・解凍期では、痛みに合わせて薬物療法や注射療法を継続しながら、肩を動かすリハビリテーションを行います。リハビリテーションは作業療法士により行われ、当院でも現在4名の作業療法士が日々診療に従事しています。御自身での自主的な運動も重要であり、両側生じてしまう方もおられるため、悪い方だけでなく、よい方の肩も同じように運動することが大切です。

西陣病院、院作業療法士スタッフ
当院作業療法士スタッフ


最近では、発症後早期に、外来で超音波をみながら頚の神経をブロックし、痛みを感じないようにした状態で、医師により肩を動かす授動術を行う治療も広まっています。上腕骨骨折や脱臼・神経損傷といった合併症もありますがまれであり、この治療により早期に痛みや動きが改善することが多く、有効な治療法とされています。

3~6ヵ月の保存療法で症状の改善がみられない場合、手術療法が選択されます。関節鏡を用いた鏡視下関節包切離術が主に行われます。1cm 未満の小切開を2~3ヵ所行うだけの小さな侵襲で手術が可能であり、かたく癒着し、動きが悪くなった組織を切り離していきます。術後は、早期からリハビリテーションを行い、痛みの軽減や動きの改善をはかります。

発症を予防するには、普段から適度に肩の運動を行うこと、猫背などの悪い姿勢にならないこと、糖尿病などの基礎疾患を悪くしないことが大切です。

五十肩はそのまま放っておかれる方もしばしばおられますが、決して自然に治るわけではありません。また、同じような症状をもつ方の中には、五十肩ではない肩関節疾患を認める場合も多くみられます。前述した症状がある場合は、ぜひ整形外科を早めに受診して下さい。

2018年05月01日