(この記事は2010年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
内科 医長 金光 大石
日本ではここ10~20年前より逆流性食道炎という病気が増えてきています。今回はこの逆流性食道炎の病態と原因、検査、治療についてお話します。
通常われわれの身体では、食べ物を胃にまで導く食道と胃との接合部(噴門部)は、安静にしている時にはある一定の力で閉じており、胃酸や胃の内容物が食道側に逆流するのを防いでいます。しかし加齢や肥満、食生活、喫煙等の要因で噴門部のしまりが悪くなってしまうと胃酸の食道側への逆流により食道が炎症を起こした状態になってしまいます。これが逆流性食道炎です。
通常は、食道も、逆流してきた胃酸や胃の内容物を、胃側へ押し戻そうとする蠕動運動という働きがありますが、その働きが低下することも逆流性食道炎が起こる原因の一つといわれています。逆流性食道炎の診断は、主に問診と内視鏡検査によって行なわれます。逆流性食道炎の症状は、胸やけの他にも胸痛や喉のつかえ感、慢性的な咳といったものがあります。
内視鏡検査は、実際に食道に炎症があるのか、また、どの程度の炎症があるのかを確認することの他に、食道がんや胃がん等の悪性疾患でないことを確認する目的で行ないます。
逆流性食道炎の治療の基本は生活習慣の改善と薬物治療です。脂肪分やタンパク質の摂りすぎのほか、甘いもの、香辛料、酸味の強い果物なども胸焼け症状を悪化させる可能性がありますので摂りすぎには注意が必要です。また、一度に摂る食事量についても腹八分目の適量を心がける必要があります。コーヒーや緑茶などに含まれるカフェインは胃酸の分泌を増やすといわれ、また、アルコールは胃酸の分泌を増やすだけでなく、噴門部の筋肉をゆるめる作用があり、摂りすぎは症状の悪化につながりやすいでしょう。
以上の様な食生活の改善とともに、適度な運動による肥満の解消が望ましいとされています。生活習慣の改善だけでは、症状を完全になくすのは難しいため、多くの患者さんは生活習慣の改善とあわせて薬物治療を行います。
薬物治療を始めると、多くの方では、すみやかに症状はなくなりますが、症状がなくなっても、食道の炎症はすぐに治るわけではありませんので、しばらくは薬を飲み続ける必要があります。また、現在使われている薬では、胃から食道への逆流を根本から治すことはできないため、治癒した後に服薬をやめると再発する方が少なくありません。
そうした方では、薬を長い間飲み続ける維持療法も行われます。食道の炎症の程度が軽く、胸やけなどの症状も時々しか起こらないような方では、症状がある時だけ服薬する治療が行われることもあります。
症状にお心当たりがある場合は、逆流性食道炎かも知れません。適切な診断、治療により不快な症状を改善するため、一度内科でご相談下さい。