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慢性腎臓病について

(この記事は2009年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


泌尿器科 医師 前田陽一郎腎臓・泌尿器科 前田陽一郎


近年、慢性腎臓病(CKD : Chronic Kidney Disease)という概念が提唱され、その早期発見と早期治療の重要性が指摘されています。慢性腎臓病とは、尿検査や血液検査で腎臓に病気があることを示す所見がある、または腎臓の機能がある程度低下している状態のどちらかが3ケ月以上持続する場合のことです。この慢性腎臓病の患者は、心筋梗塞や脳卒中になり易いことがわかっています。また、腎臓の機能が低下してしまうと透析療法が必要になる可能性が高くなります。このような理由から慢性腎臓病の早期発見と早期治療は非常に重要なのです。日本腎臓学会の調査によると、わが国の成人における慢性腎臓病の患者数は約1330万人いると推計されています。これは成人のうち慢性腎臓病の人が12.9%もいることになりこの数は予測されていたよりもはるかに膨大です。もはや慢性腎臓病は国民病であるといっても過言ではありません。これらの慢性腎臓病の人たちが早期にそれぞれの進行過程に合った、適切な治療をきちんと行えば、透析になったり、心疾患で亡くなったりする人の数を大幅に減らすことが可能と考えられています。

では、慢性腎臓病を早期発見するにはどうすればよいのでしょうか? 一番簡単な方法は尿検査を受けることです。職場の健診や住民健診で尿検査を受けたことがある方も多いのではないでしょうか。腎臓が正常な場合は尿中にタンパクは混じっていません。ところが慢性腎臓病の患者では尿にタンパクが混じっています。この尿タンパクが存在するかを調べるのは非常に重要なことなのです。尿検査ではこの尿タンパクの有無を調べることができます。また、尿タンパクがたくさん出ている人ほど、将来腎臓の機能が悪くなる可能性が高くなることがわかっています。しかし、健診などで「尿にタンパクが混じっていますよ。病院で診てもらってください。」と指摘されても、自覚症状がないために、ついつい放っておく人が圧倒的に多いのが現実です。尿タンパクを指摘されて実際に病院で詳しい検査を受けた人は約半数にとどまっていることが、日本慢性腎臓病対策協議会の調査で分かり、腎臓病に対する認識の低さが問題となっています。尿タンパクの程度に応じて適切に治療することで、腎機能障害の進行を防ぐことができる場合があります。また、腎機能障害の進行を防ぐことができない場合でもその速度を遅くすることは可能です。健診などで尿タンパクを指摘された場合は、自覚症状がなくても(自覚症状が出現するぐらい腎臓の機能が悪くなる前に)病院で詳しい検査を受けて頂きたいと思います。特に、糖尿病、高血圧、肥満、脂質異常症(高脂血症)、メタボリックシンドローム、尿路の病気、膠原病、肝炎、家族に慢性腎臓病の人がいる、消炎鎮痛剤を常用する方は注意が必要です。尿検査を受けていない人にはぜひ受けていただきたいと思います。


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「結膜弛緩症」について

(この記事は2009年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


眼科部長 小室青


結膜弛緩症とは、その名の通り、結膜(白目の皮)が弛緩する(たるむ)病気で、中高年に非常によくみられます。病気といっても、もともとは、顔のしわと同様に加齢性の変化であるので、特に治療されていませんでした。しかし、最近、この白目のしわである結膜弛緩症が、涙目やごろごろ感といった目の不快感の原因となることがわかってきたため、手術的な治療もなされる様になってきました。では、なぜ、結膜弛緩症が目の不快感を引き起こすのでしょう。

涙は、上まぶたの外側の奥にある涙腺というところで作られ、目の表面を潤したあと約10%は蒸発し、残りは、目の内側にある小さな穴(涙点)から、鼻の奥の方へと抜けていきます(泣いた時に鼻がでるのは、このためです)。結膜弛緩症では、たるんだ白目の皮が、下まぶたの縁に存在します。この下まぶたの縁は、涙がたまり、涙点へ流れていく涙の通り道になっていますので、たるんだ白目の皮がこの通り道をじゃまするために、涙がうまく流れていかなくなり、涙がまぶたの皮膚の方に、こぼれやすくなります。そのため結膜弛緩症では、なみだ目を訴えることが多いのです。また、まぶたの縁にたまった涙は、まばたきのたびに、目の表面に広がりますが、結膜弛緩症では、本来涙がたまる部分にゆるんだ白目の皮があるため、涙のたまる場所が小さくなっています。したがって、涙が少ない人では、涙がさらにたまりにくくなり、もっと目がかわきやすくなることがあります。また、目がかわきやすい人では、ゆるんだ白目の皮が、まばたきのたびに、目にふれる感じ、すなわち、ごろごろ感を感じやすくなります。また、もともと、目がかわきやすいドライアイの人に白目のたるみがあると、目薬が、うまくたまらずこぼれてしまうので、症状が悪化しやすくなります。このような症状以外にも、まばたきのときに、たるんだ白目と上まぶたの縁が擦れて白目に出血(結膜下出血)が起こり、白目が真っ赤になったりすることもあります。また、かすんで見えることもありますが、結膜弛緩症があっても、まったく症状がない患者さんもたくさんおられます。

結膜弛緩症によると考えられる強い自覚症状がある場合には、治療を行います。よく充血する場合や、ドライアイがある場合には、炎症をおさえる薬や人工涙液の目薬をします。軽い症状であれば、自然によくなることもありますが、症状が強いようであれば、手術で治療します。手術は特に入院の必要もなく、手術の間の痛みもありません。手術は、白目のたるみを切除するものですが、白目のたるみは重力の関係で下方に強いので、主に下方の結膜を切除し、できるだけ目の表面をしわのないなめらかな状態にします。アンケートによる調査では、この手術後には、約90%の患者さんの自覚症状が良くなることがわかっています。しかし、涙目については、涙点以降の涙の通り道が狭くなっている(鼻涙管狭窄)を合併している場合も多くあり、結膜弛緩症の手術だけでは、あまり症状が良くならないこともあります。また、もともとドライアイがある場合には、術後も人工涙液の点眼を続ける必要があります。

結膜弛緩症は、ありふれた病気ですが、目の強い不快感を生じることがあります。なみだ目やごろごろ感といった目の不快感が続く場合には、一度眼科を受診してみて下さい。

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スイッチOTCとは

(この記事は2009年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


薬剤科 科長 三宅健文


ある入院患者さんからこんな質問がありました。
「最近、病院などでもらっているクスリと同じ名前のクスリが、薬局で売られていますが、それってどうしてなんですか?」
そこで今回は、医療用から生まれた大衆薬“スイッチOTC”についてお話します。

OTCとは "over the counter" の略で、薬局やドラッグストアのカウンター越しに買える薬のことです。つまり、患者さんと薬剤師がカウンターを挟んで相談の上、販売されるクスリのことです。さらにそのOTCの中でも、これまでは医師による診察が必要で、医療機関を受診しなければ手に入らなかったクスリが、OTCとして薬局やドラッグストアで買えるように認可されたものを、“スイッチOTC”といいます。OTCの役割は、医師にかかるまでもない軽い症状(風邪のひきたてや疲れ目、食べ過ぎ、ちょっとした擦り傷など)の時に自分で判断し薬を購入し、それらを使って早めに治すことで、一般にセルフメディケーションと言われています。

スイッチOTCは、医療用でのみ使用が認められている成分の中で、比較的副作用が少なく、かつ安全性の高い成分について、一般薬への配合を許可するというものです。最近、スイッチOTCが増加傾向にあります。

スイッチOTC厚生労働省も近年の医療費の増大から、健康保険の負担がない医療用医薬品のスイッチOTC化の合理化を推進しようとしており、既に水虫のクスリ、胃酸を抑えるクスリ、痛み止めなどがスイッチOTC化されています。さらに今後は、高コレステロール、高血圧、高血糖に使用する医薬品もスイッチOTC化することが検討されています。しかし、医学的知識のない者による医薬品の自己使用は病状の悪化をもたらすこともあるので、こうした一般用医薬品の使用は薬剤師に相談の上、原則短期間に留め、重症の際や服用しても症状がよくならない場合は、直ちに医療機関を受診することをお勧めします。

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輸血療法~自己血輸血について~

(この記事は2009年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


臨床工学検査科 岡本祥克

輸血療法とは、血液中の赤血球などの細胞成分や凝固因子などの蛋白質成分が量的に減少又は機能的に低下したときに、その成分を補充することにより臨床症状の改善を図る治療です。

一般的に“輸血”というと献血された血液を使用すると考えますが、輸血には献血された血液を使用する“同種血輸血”と、御自身の血液を事前に貯血し使用する“自己血輸血”とがあります。今回は自己血輸血について述べさせていただきます。

自己血輸血は読んで字の如く、御自身の血液を貯血し輸血する治療方法であり、3~4週間前より数回に分けて血液の採取を行い手術日まで保管し、手術の際に使用いたします。

しかし自己血輸血は、すべての輸血療法に使用できるのではなく「予定される手術において輸血必要量が600~1500mlと予測され、また手術までに十分な期間がある場合」に用いられる輸血療法であります。

ここで簡単に当院での自己血採取の流れを説明させてもらいます。

採取と管理
  1. 採取当日外来受診し採血を行い、検査結果より採取が行えるか医師が判断します。
  2. 採取は看護師により消毒、穿刺を行い採取します。
  3. 臨床検査技師が採取量を確認し、抗凝固剤と血液の混和を行います。
  4. 採取後、体の補正を行うために輸液、造血ホルモン剤の注射を行います。
  5. 臨床検査技師により採取日と採取量、保管期限についての説明を患者さんへさせていただきます。
  6. 手術前日まで、お預かりした血液は専用の冷蔵庫にて保管管理いたします。手術前日に保管血液の検査を行い、手術当日使用できるように準備いたします。

輸血療法にご不明な点がありましたら、担当医までお願いします。



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手術室が増室、機器も充実。手術がより安全に、より高いレベルで!

(この記事は2009年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


手術室部長・麻酔科部長 中川博美


西陣病院は平成16年より増改築に着手し、その最終段階として平成20年11月から手術室の増室・改修工事に取り組みました。その間、皆様方には多大なご理解とご協力を賜りましたこと、この場をおかりして深く感謝申し上げます。おかげさまにて手術室の工事も平成21年3月に無事完了し、4月より新手術室が稼動し始めました。

昨年度は外科系5科(外科・整形外科・泌尿器科・眼科・皮膚科)で約1200件の手術が行われ、10年前の手術件数の約1.5倍に達しました。これに伴い1手術室あたりの手術件数も600件を越えたため、手術室1室増室を含む大幅な改修工事が行なわれました。整形外科の人工関節手術をはじめとする清潔手術をより安全に行うことのできるバイオクリーン・ルーム、低侵襲な鏡視下手術に対応した一般外科・泌尿器科手術室、そして、局所麻酔での眼科・皮膚科症例中心の手術室と3室が機能分化しました。

天井つり下げ型モニターで鏡視下手術が快適に同時に、設備や機器もいっそう充実しました。各手術室ともHLED無影灯(日本初)が設置され、明るく良好な視野のもと深部臓器の手術でもより安全により正確に行えるようになりました。21インチ天井つり下げ型ハイビジョンテレビモニターシステムにより画質が格段に向上し、鮮明な画像が得られることでより繊細な鏡視下手術操作が可能になりました。鏡視下手根管開放術や経尿道的手術などでは、患者様のご希望により、この画面をご一緒にご覧いただけるようにもなりました。生理食塩水還流の最新式経尿道手術システムはより合併症の少ない安全な泌尿器科手術を可能にし、整形外科ではハイスピード・ドリル導入によって脊椎手術をより安全に短時間に行えるようになりました。また、どの手術室にも全身麻酔器と各種モニターが設置され、麻酔科専門医による全身麻酔が可能な体制がとれるようになりました。

一方、手術室滅菌部門では、日本医療機器学会認定第2種滅菌技士2名の有資格者によって、より厳格に洗浄・消毒・滅菌が行なわれるようになりました。各手術器具はウォッシャー・ディスインフェクターで均一洗浄・高水準消毒された後、物理的、生物学的、そして、個々の滅菌物には化学的滅菌インジケータを使用し、最先端のコンピューター監視システムのもとクリーン蒸気発生器付き滅菌装置を用いて手術器具の個別性に適した滅菌方法を選択することで、よりレベルの高い滅菌品質保証が行えるようになりました。

ハード面が充実した新手術室このようにハード面が充実した新手術室で、患者様により安全で良質な手術室医療をさらに高いレベルで提供できるよう、大学との連携も深めつつ、各科の医師はいっそう技術の向上に努めるだけでなく、看護師はじめすべての医療スタッフの一人ひとりもその役割と責任を自覚して「手術チーム」としてのソフト面もますます充実させるよう、日々、努力・精進してまいりたいと存じます。今後ともよろしくお願い申し上げます。

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