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気胸と内視鏡(胸腔鏡)手術

(この記事は2010年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載予定です)

外科医長 中瀬 有遠

呼吸が苦しい、胸が痛い、咳がでるなどの症状のときに、肺に穴があいて空気が漏れる状態になっていることがあります。それが気胸です。図1のように肺のパンクしたところから空気が漏れて胸腔という閉ざされた空間にたまるため、肺が圧迫されてしぼんでしまうので呼吸が苦しくなります。


図1 写真1 写真2
図1 写真1 写真2

原因別に大きく①自然気胸、②外傷性気胸に分類されます。①は肺嚢胞(ブラ)や肺気腫などの肺疾患が原因で、②は交通事故などで胸部を打撲した場合や、転倒して背中や胸を強く打ったとき(スノーボードで転倒した時など)におこります。特にブラが原因となる自然気胸では長身で痩せている若い男性に多いという特徴がありますが、喫煙歴が長い高齢者は肺気腫などの肺疾患が気胸の原因になることがあります。

気胸が疑われたら胸部のレントゲン写真やCTなどで診断します。レントゲン写真(写真1)で肺が縮んでいたら気胸です。肺の縮み具合によりチューブを入れて胸腔内の空気を抜く必要があります。チューブを入れて空気を抜き、肺が広がったところで胸部CT(写真2)を撮影すると肺尖部(肺の先端)のブラ(矢印部分)がわかることがあります。空気漏れが続かなければチューブを抜くことが可能ですが、再発率は50%程度で、いつ再びパンクするかわかりません。一説ではストレスのかかる大事な時期に起こりやすいとも言われております。また、将来パイロットやダイバーなど(気圧の変化が激しい仕事)などになろうという方は気胸が発症した場合致命的になる可能性があります。そのため、治療の主流となっているのが内視鏡(胸腔鏡)下手術です。ブラとは写真3のように中が透けてみえるくらい膜がうすい風船のようなものです。こんなに薄いといつ破裂してもおかしくないですよね。手術では図2のように胸に2~3か所ぐらいの穴(約1~2cm)をあけて、内視鏡とマジックハンドのような手術器具を入れ、モニターを見ながら手術を行います。風船部分を写真4のような自動縫合器というホッチキスの針がたくさん並んだ便利な機械を使って切り取ります。手術は1~2時間ぐらいで、傷も小さく、さらに当院では皮下埋没縫合という抜糸の必要ない、きれいに治る方法で皮膚を縫っています。また、胸腔鏡での手術は体に与える負担や術後の苦痛も少ないので手術の翌日には歩くことも食事もでき、数日で退院できます。


写真3 図2 写真4
写真3 図2 写真4

もちろん、このような手術は気胸を発症した全て方に適応となるわけではありません。開胸による手術をする方がよい場合もありますし、薬剤による胸膜癒着法など手術以外の治療法もあります。冒頭に述べました胸部症状がある方、以前に気胸と言われたが手術をしていない方、再発が繰り返し起こる方などは外科でご相談ください。


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単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術について -傷の無い手術を目指して-

(この記事は2010年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものを一部改編しています)

外科部長 宮垣拓也 外科 部長 宮垣拓也

本誌3.4月号で髙木副部長より胆石症についての説明がありましたので、本年3月からの胆石外来の開設に伴い今回は昨年10月より当科で治療を開始した「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術」のお話をしたいと思います。



胆石症は中年以上の肥満気味の女性に多いと言われていますが、最近は食生活の欧米化に伴い老若男女を問わず痩せた人にもこの疾患に悩まされる人が増加しています。その標準的な治療法は前回お話がありましたように手術療法である腹腔鏡下胆嚢摘出術であります。この手術はお腹に10cm以上の傷をつけていた以前(1980年代まで)の開腹手術に比べ、1~2cm前後の小孔を3~4箇所空けただけで完遂されるため傷も小さく術後の回復も早いので日本で初めて行われてから20年以上が経過した現在でも胆石治療のゴールドスタンダードです。当科でも1993年の導入以来1,000例近い症例を重ね多くの患者様の悩みに応えて参りました。

 ところが昨今の腹腔鏡・胸腔鏡を用いた鏡視下手術の発展は目覚しく、最近ではノーツ即ちNOTES(Natural Orifice Translumenal Endoscopic Surgery:経管腔的内視鏡手術、体表無切開内視鏡手術・・・口や肛門などの体の自然孔を用いて体表面に傷をつけない手術)が注目されています。ただノーツは未だ標準化されているとは言えず、その導入手技として単孔式内視鏡手術(TANKO、SIES:Single Incisional Endoscopic Surgery など呼称は様々です)が昨年度より脚光を浴びるようになりました。この手技で胆嚢摘出術が世界で初めて行われたのは1997年ですが、手術手技・器具などの整備が進まず標準化されるには10年の歳月を要し世界的に2007年よりブレイクしました。日本でも2008年末より始められ、先進的な医療機関で導入開始されるケースが増えて参りました。

 当科では昨年10月より炎症の軽度な胆石症の患者様に対して導入を開始しその後色々工夫を重ねて参りました。この手術は小さいといえどもお腹に3~4箇所の傷をつけていた従来の腹腔鏡手術に対し、臍部に2cm程度の縦切開を一箇所のみ加えそこから全ての手術操作を行うものであります。
以前(1980年代まで)の開腹胆嚢摘出術 術前 術後の傷
以前(1980年代まで)の開腹胆嚢摘出術 術前 術後の傷
                    
従来の腹腔鏡下胆嚢摘出術 実際の手術操作 術後の傷は4箇所
従来の腹腔鏡下胆嚢摘出術 実際の手術操作 術後の傷は4箇所
                    
単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術 実際の手術操作 術後の傷は臍部の1箇所のみ
単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術 実際の手術操作 術後の傷は臍部の1箇所のみ
 従来法に比し手術時間もやや長く技術的難度は決して低いとは言えませんが、傷はお臍の窪みに隠れ術後ほとんど見えず(所謂 invisible scar)美容上の大きな利点があるのみならず術後の回復がより一層早くなり多くの患者様とりわけ若い患者様に大変喜ばれております。

傷は臍部の1箇所のみなので、手術翌日から入浴は問題なく、希望されれば退院も可能 術後1ヶ月の臍部
傷は臍部の1箇所のみなので、手術翌日から入浴は問題なく、希望されれば退院も可能 術後1ヶ月の臍部。傷はほとんど目立たなくなる(invisible scar)。
 ただ開腹術の既往があり癒着が強い場合や3D-DIC-CT(点滴静注胆嚢造影の3次元コノピューター断層撮影)で胆嚢が描出されないような高度の炎症がある場合はこの手術を完遂するのが難しく、何より患者様の安全性を重視する当科では従来法もしくはそれより傷を減らした2孔あるいは3孔式の腹腔鏡手術を行っています。

3D-DIC-CTで胆嚢が描出されれば、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術が可能 3D-DIC-CTで胆嚢が描出されなければ、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術は困難
3D-DIC-CTで胆嚢が描出されれば、胆嚢内に胆石が充満していても、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術が可能 3D-DIC-CTで胆嚢が描出されなければ、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術は困難
 我々は患者様の体型・炎症の程度・対象臓器・コスト面を勘案し色々手技やアプローチを工夫し胆嚢のみならず、所謂盲腸(虫垂炎)に対する虫垂切除術や早期の大腸癌などに対しても積極的に単孔式手術を行っております。

既存の手術器具を利用した腹腔鏡下胆嚢摘出術 専用の手術器具を利用した腹腔鏡下胆嚢摘出術
既存の手術器具を利用した腹腔鏡下胆嚢摘出術 専用の手術器具を利用した腹腔鏡下胆嚢摘出術
医療用手袋を利用した腹腔鏡下虫垂切除術(グローブ法) 既存の手術器具を改良利用した腹腔鏡下結腸切除術
医療用手袋を利用した腹腔鏡下虫垂切除術(グローブ法) 既存の手術器具を改良利用した腹腔鏡下結腸切除術
  また当科では最近、単孔式腹腔鏡下手術専用の器具を独自に開発し、この手術が簡便で容易に行えるように種々の工夫をこらしています。

当科で独自に開発した器具を用いた単孔式腹腔鏡下手術
 冒頭に述べましたように多数の患者様のご要望により当科では本年3月より月~金曜日の夜間診療の時間帯(17時~19時)に胆石外来を開設致しました。胆石症のみならず虫垂炎などでもお悩みの方はお気軽に診察を受けご相談下さい。


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胆石外来の開設について

(この記事は2010年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものを一部改編しています)





外科 医長 高木剛
外科 医長 高木剛





胆石症について

先ず、胆のうとは肝臓でつくられた胆汁(たんぱく質や脂質の消化・吸収を助ける液)を貯蓄する約30ccの小さな袋状の臓器です。胆石症は、胆のうの働きがなんらかの原因で悪くなり、その胆のうの中で胆汁が結晶を作ることで石ができてしまう病気です。胆石は下の写真のように、コレステロール・カルシウム・ビリルビン等の種々の成分からできています。



胆道系と膵臓の解剖
胆道系と膵臓の解剖


胆石症の症状は、石があるから必ずしも症状が出るわけでなく無症状で経過する場合が多いです。しかし、胆石症の約2割の方に症状がでるといわれています。典型的な症状は、脂肪の多い食事の摂取後に突然の上腹部痛、右季肋部痛が出現するのが特徴的です。痛みは右肩・背部にしばしば放散し、悪心や嘔吐を伴うことがあります。



摘出した胆のうと種々の胆石※写真はクリックで拡大します





治療方法

治療方法には、主に3つあります。


  1. 結石溶解剤[飲み薬]にて胆石を溶かす方法:体への負担は最も少ないのですが、溶かすことができる石には限りがあり、ほとんどの場合で無効です。

  2. 衝撃波による治療(ESWL):衝撃波で石を破砕するのに回数がかかり、時に破砕された石が細い胆のう管につまり胆のう炎を誘発することもあります。根治的治療とはならず、ほとんど行われておりません。

  3. 外科的治療:手術は一度で根治することができる方法です。


(3)の治療方法をご紹介します。




  • 腹腔鏡下胆のう摘出術

    現在、胆石症の治療の主流となっている方法です。全身麻酔のもと、通常は臍下と上腹部に計3~4個の小穴をあけおなかの中(腹腔内)に二酸化炭素を送気(気腹)した後、テレビモニターにつながったカメラ(腹腔鏡)を腹腔内に挿入し、映った画像を見ながら専用の手術器械を駆使して胆嚢を摘出します。手術所要時間は、状態にもよりますが1時間前後です。開腹胆嚢摘出術より創部がかなり小さい分、痛みも軽度で回復も早く傷もほとんど目立ちません。合併症がなければ手術後2~7日で退院可能です。また、当科では昨年秋より臍部一箇所の創のみより手術を行う単孔式腹空鏡下胆嚢摘出術を炎症の程度に応じて行っており、術後傷跡がほとんど目に見えず、患者様に喜ばれております(これについては、こちらでご紹介しています)。ただし、腹腔鏡下胆のう摘出術を開始しても、以下の理由などで途中から開腹胆のう摘出術に移行する場合があります。

    • 胆のうの炎症が強かったため周囲臓器との癒着が強い

    • 術中に出血、胆管損傷・腸管損傷が発生し、対処が困難(頻度はまれです)など




  • 腹腔鏡下胆嚢摘出術





    腹腔内画像
    (胆のう摘出前)
    胆のう摘出後



  • 開腹胆のう摘出術

    最初から開腹手術を行うことはあまりないのですが、開腹手術の既往や炎症などにより癒着がかなり強いと予測される場合、また癌の合併している疑いが強い時は10cmほど切開する開腹術を行います。




手術後の経過

胆のうを摘出しても胆のう欠損症状はほとんど認められませんので、術後の食生活は今まで通りで構いません。退院後は、術後の経過を診るため1~2回外来受診して頂くことが多いですが、その後の定期受診は必要ありません。




胆石外来の開設について
当科では多数の患者様のご要望により、本年3月1日より夜間診療(月~金)の時間帯に胆石外来を併設いたします。胆石症でお悩みの方はお気軽にご相談下さい。

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2009年4月より「ヘルニア(脱腸)外来」を開設します!

(この記事は2009年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


外科 福本兼久


当院外科外来では、鼠径ヘルニアなどをより専門的に診察するため、2009年4月より火、水、木曜日の午後1時半から「ヘルニア(脱腸)外来」を開設いたします。この専門外来では、鼠径ヘルニアをはじめ、大腿ヘルニア、腹壁ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニアなどお腹のヘルニアの診断と治療を行っていきます。以前、西陣病院だよりにも書きましたが、「ヘルニア」とは医学用語で「正常の位置にあるものが他の部位に飛び出してしまうこと」、俗にいう「脱腸」のことで、あまり症状がない人は病院を受診されず、意外と「隠れヘルニア」が多いのが現状です。では、以前と同じような内容になりますが、ヘルニアについて少し詳しくご説明致します。


大人と子供で違う原因

鼠径ヘルニアは、足のつけ根(鼠径部)がふくらむ病気です。鼠径ヘルニアのできる原因は子供と大人でやや異なります。子供の場合は、本来ならばふさがるはずの腹膜の袋がふさがらずに残ってしまうという先天的なもので、自然に治ることもありますが、生後5カ月位からは手術が必要となります。また大人の場合は、腹壁の筋肉が加齢とともに弱まり、その弱くなった部分を通って腹膜の袋が出てきてしまうことが原因です。こちらは自然に治ることはなく、手術で治療が必要です。

ヘルニア     ヘルニア     ヘルニア


鼠径ヘルニアの症状 ~怖い「嵌頓(かんとん)状態」~

ヘルニアの症状は、立ち上がったりお腹に力を入れると鼠径部がふくらみ、体を横にしたり手で押さえると引っ込んでわからなくなることが特徴です。このように腸が出たり入ったりしているうちは、軽い痛みやつっぱり、便秘程度で、強い痛みなどの症状はありません。しかし、腸(臓器)が飛び出したまま戻らない状態(かんとん状態)になってしまうと、はさまった腸をすぐに元に戻さなければ腸が腐ることもあるので、緊急手術が必要となります。


鼠径ヘルニアの治療

大人の鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、薬やヘルニアバンドでは治らず、「手術」のみが唯一の治療法です。鼠径ヘルニア手術は、子供の場合、飛び出した袋を切るだけですが、大人の場合は弱くなった腹壁を補強することが必要です。この補強は、古くから周りの組織を縫い寄せる方法がとられてきましたが、この方法では、縫い合わせた筋肉や筋膜の部分が痛み、加齢によって筋肉が弱くなると再発したります。そこで現在では、筋肉の弱い部分にメッシュ(細いポリエステル製の糸をシ-ト状にしたもの)を挿入し、腹膜を広く覆い補強するのが主流となっています。この手術のメリットは筋肉を縫い合わせないので、術後の違和感や痛みが少なく早期社会復帰が可能で、再発が少ないことです。当院でもメッシュを用いた手術を行っており、下記のような様々な形のメッシュをヘルニアの状態により選んで使用しています。また、当院では、鼠径ヘルニア手術にクリニカルパスを使用しており、入院期間は3〜4日間程度ですが、状況に応じて手術当日に入院し1泊2日で術後早期に退院も可能です。


メッシュ・プラグ   メッシュ・プラグ

プロリーン・ヘルニア・システム(PHS)   プロリーン・ヘルニア・システム(PHS)

ダイレクトクーゲルパッチ   ダイレクトクーゲルパッチ


手術時の麻酔は?術後は?

腰椎麻酔から全身麻酔まで患者様の状態に応じて行います。手術後は、翌日から食事や歩行が可能です。シャワ-やお風呂に入ることもできます。また、退院直後から事務や軽作業の仕事は可能です。ただし、重い物を持つことやスポーツなどでおなかに強い力を入れるのは、手術後1ヵ月ぐらいは避けて下さい。


鼠径ヘルニアの手術は、人工補強材の登場によって、患者さんの負担の少ない手術が実現可能になりました。また手術後の痛みが少ない点や、短時間で終わること、退院後に早期社会復帰が可能なことなど利点の多い手術です。足の付け根がふくらんできたら、当院のヘルニア専門外来へお気軽にご相談してください。

また、ヘルニアの情報は次のウェブサイトでも詳しく紹介されています。
ヘルニア倶楽部

| Copyright 2009,04,27, Monday 03:01pm administrator | comments (x) | trackback (x) |

 

がんによる有痛性骨転移の疼痛治療について

(この記事は2008年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

化学療法外来 がん治療認定医 宮垣 拓也(外科)

 骨に転移したがん(骨転移)は、骨を徐々に壊すなどして痛みを引き起こします。こうした痛みを取り除く方法には、転移した部分の骨を切除する手術や体外から照射する放射線治療、骨転移の進行を抑える薬や鎮痛剤、抗がん剤の治療などがあります。
 ただし、、骨転移は広がり、数も多くなると、手術や放射線の体外照射での対処が難しくなります。鎮痛剤や抗がん剤なども、量を増やせば胃腸障害、吐き気、眠気などの副作用が大きくなる恐れがあります。こうした多発骨転移の新たな対処方法が、2007年11月新たに保険適用になった「ストロンチウム-89」という放射線を発する薬の注射です。

 当院でもがんの多発骨転移の痛みに苦しまれる患者さんに対して、「ストロンチウム-89」(商品名:メタストロン注)による疼痛治療を本年5月より開始しました。京都府内ではこの薬品が使用できるのは当院を含めて4施設のみです(平成20年5月現在)

ストロンチウム89放射性医薬品「メタストロン注」とは

 メタストロン注(一般名:ストロンチウム-89)は物理学的半減期50.5日のベータ線(放射線)を放出する核種(アイソトープ)であり、同族体のカルシウム(Ca)と類似した体内動態を示すことから、骨転移病巣など骨の代謝の活発な部位に選択的に集積する特徴があります。したがってこのお薬が骨転移病巣に多く集積することから、そこから放出されるベータ線により骨転移による疼痛緩和効果をもたらします。





(画像はクリックすると大きく表示されます)

 このような特徴から、放射線治療の内用療法として使用され、標準的鎮痛薬では除痛が不十分で、外部放射線照射治療が適応困難な多発性骨転移における骨性疼痛の緩和に適しています。

 欧米では放射線内用療法剤として前立腺がんや乳がんなどの骨転移による疼痛緩和に広く用いられており、現在、世界41カ国で承認され使用されています。
また、ストロンチウム-89から放出されるベータ線(放射線)は透過性が低く、治療を受ける患者様も不必要な放射線被ばくを受けず、医療スタッフや家族などの周囲の人にも影響を及ぼしません。
放射性医薬品の使用については医療法その他の放射線防護に関する法令関連する告知及び通知により厳重に管理することが義務付けられおります。当院は1985年民間病院でははじめて、国内でも8番目にPET装置を導入しており、これらの放射線医薬品の安全な取り扱いに精通している放射線科医、スタッフが多数居りますので、ご安心して受診ください。

 我々はがんの痛みに苦しまれている患者さまに対してこのような放射線療法のみならず、つらい症状を少しでも緩和する手術療法、鎮痛薬・鎮痛補助薬や抗がん剤等をバランス良く投与する薬物療法など、全ての治療法の長所短所を加味した上、病態が違う個々の患者さんにとって何が一番いいのか常に考えながらそれらの治療法を組み合わせ、患者さんの痛みに対して奢らず真摯に対応する気持ちを大切に治療にあたっておりますのでいつでもお声をかけて下さい。


受診について

 ・詳細については担当医師 福本(外科)よりご説明させていただきます。
  一度お電話ください。

   連絡先: 地域医療連携室
       電話 461-8800(代)
       FAX 465-7327

 ・最初の紹介時に持参していただきたいもの
    診療情報提供書
    骨シンチグラフィ(最近撮影されたもの)
    血液検査データ
 ・初回診察時には本人さまだけでなく、出来れば家族の方も一緒に来院ください。


適応について

 本治療を行うには、以下のすべての基準を満たすことが必要です。
 ・組織学的及び細胞学的に固形がんが確認されていること
 ・本薬投与前に骨シンチグラフィで多発性骨転移が認められること
 ・骨シンチグラフィの取込み増加部位と一致する多発性疼痛部位を有すること
 ・非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)やオピオイド及び従来の鎮痛補助剤では疼痛コントロールが不十分であること
 ・外部放射線治療の適応が困難な状況であること
 ・本薬の臨床的利益が得られる生存期間が期待できること
 ・十分な血液学的機能が保たれていること

有痛性骨転移における非観血的疼痛緩和法
有痛性骨転移における非観血的疼痛緩和法

(クリックすると画像が大きくなります)


前処置および投与後の患者さま・家族の方への説明(骨の痛みの治療Q&A 参照)

 ・本薬投与前後において、骨髄の働きを調べるため定期的に血液検査をします。
 ・本薬投与前2週間はカルシウム剤を使用しない。
 ・この薬の副作用で骨髄の機能が低下し、以後の治療に影響が出る場合があります。
 ・本薬投与後一過性に痛みが増強することがあります。
 ・骨髄機能を低下させる抗癌剤治療は本薬投与前後の一定期間はさける必要があります。
 ・妊娠している方や妊娠の可能性がある方は投与できません。
 ・患者様の周囲に居られる方が放射線に被ばくすることはほとんどありませんが、血液や排泄物などの取扱いには注意が必要です。最初の診察時には本人およびご家族や介助される方には説明いたします。
 ・本薬は抗腫瘍効果を示す明確な証拠はないため骨転移部位の腫瘍に対する治療を目的として使用できません。


 がんの痛みに苦しまれる患者さんおよび患者さんを支えておられるご家族・先生方や看護師さんの、少しでもお役にたてるよう、当院では小冊子『がんの痛みのコントロール』・リーフレット『がんの痛みのことがわかる本』を作成、配布しております。 

冊子「がんの痛みのコントロール」の紹介
リーフレット「がんの痛みのことがわかる本」
  
続き▽

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