(この記事は2015年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
| 腎臓・泌尿器科 副部長兼
透析副センター長
小山 正樹 |
慢性腎臓病とは自覚症状のないまま腎臓の機能がだんだん低下していく病気です。
慢性腎臓病が進行すると、夜間尿、浮腫、貧血、倦怠感、息切れなどの症状が現れてきますが、これらの症状が自覚されるときは、すでに慢性腎臓病が進行している状態であります。また、一度機能が低下した腎臓はもとに戻りません。
慢性腎臓病は進行していく病気ですが、その進行速度は患者さんによってさまざまです。近年、慢性腎臓病の進行を抑える方法がわかってきたことから、慢性腎臓病を早期に発見し、積極的に治療するための取り組みが日本のみならず世界中で始まっております。
慢性腎臓病が進行し、透析療法が必要となる末期腎不全患者さんは30 万人を超え、なお増加傾向にあります。その予備軍である慢性腎臓病患者さんは、成人人口の13%、1330 万人と推定されており、慢性腎臓病は国民病と言えるほど頻度が高い疾患であります。
慢性腎臓病があるか否かを知るためには2 つの検査があります。1 つは検尿検査です。尿に蛋白や血尿が出ていれば腎臓が傷んでいることを意味します。もう1 つは血液検査で尿に排泄される血清クレアチニン(Cre)という物資の血中濃度を測定することです。クレアチニン値は腎臓機能が悪化すれば、腎臓から尿に十分排泄されないので、血中濃度が上昇します。クレアチニン値は、年齢、性別、体重により正常値が異なりますので、これらを補正した計算式により、糸球体ろ過量(GFR)を推定します。この値が低下していれば、慢性腎臓病があるといえます。慢性腎臓病は、この2 つの検査である蛋白尿の程度および糸球体ろ過量によって、ステージ分類されます。
慢性腎臓病の原因には、慢性糸球体腎炎などの腎臓の病気のみならず、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなども原因となります。慢性腎臓病の進行を遅らせるためには、日々の生活習慣の改善、食事療法や薬物療法による血圧管理、貧血改善、脂質代謝、電解質管理などを総合的に行うことが重要です。食事療法は、蛋白制限、塩分制限が基本になります。また、慢性腎臓病は高カリウム血症になることが多いため、生野菜や果物なのどの過剰摂取を控えていただく必要があります。
慢性腎臓病の治療においては、患者さん1 人の力で治すことは難しく、また医師だけでなく、薬剤師、看護師、栄養士、ソーシャルワーカーなど皆で取り組んでいく必要があります。 当院においても慢性腎臓病への取り組みとして、慢性腎臓病教育入院を行っております。3 泊4 日の入院期間にて、何が原因で慢性腎臓病になったのか、何が慢性腎臓病にとって悪いのかなどについて各種検査を行い、今後の治療を検討します。また、食事指導、クスリ指導などから日常生活の注意点などについて、学習していきます。
腎機能が悪いと指摘された方、蛋白尿ないし血尿を指摘された方は、一度腎臓・泌尿器科にご相談してください。手遅れになって透析が必要といわれる前に治療していきましょう。
◆CKD教育入院について
当院では、CKD(Chronic Kidney Disease:慢性腎臓病)の患者さんに対してCKD教育入院を行っております。内容につきましては、ご自身のCKDの症状を正しく評価し、その病気についての知識と養生方法を短期間に修得していただきます。
CKD初期段階では、自覚症状はほとんどありませんが、放っておくと腎臓のはたらきがどんどん悪化し、いずれ腎代替療法を受けなければならないことになります。通常コース(3泊4日:火曜日入院~金曜日退院)と、シャント作成コース(6泊7日:火曜日入院~翌週月曜日退院)の2コースを準備しております。
かかりつけの先生に、「腎機能が少し低下している」「尿たんぱくが続いている」などの説明がありましたら、一度当院の腎臓・泌尿器科を受診してください。