(この記事は2014年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
皮膚科 部長 坂元 花景
ヘルペスという病気について、皆さんどこかで聞かれたことがあるかと思います。ヘルペスはウイルスの名前で、単純疱疹ウイルスと水痘・帯状疱疹ウイルスの2種類があります。単純疱疹ウイルスが原因の「ヘルペス」には、俗に「熱の花」と呼ばれる唇の周りの水ぶくれなどがありますが、今回お話しするのは、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因の「帯状疱疹」です。
水痘・帯状疱疹ウイルスに初めて感染すると、水痘(水ぼうそう)になります。ほとんどの方は子供の頃にかかるか、予防接種を受けておられます。一旦かかると、ウイルスは一生神経細胞の周囲に潜伏し、身体が疲れた時に活性化して増え、皮膚に赤みやブツブツを作ります。これが帯状疱疹です。
帯状疱疹では神経の支配領域に一致して皮疹が出るため、赤みやブツブツは身体の左右のどちらかに帯状に出ます。どこに出てくるかは人によって違い、ピリピリとした痛みやしびれ、腫れを伴うことが多く、重症の場合は潰瘍化して痕を残します。四谷怪談のお岩さんは、帯状疱疹がモデルと言われています。また、ブツブツの中にはウイルスがいるので、水ぼうそうにかかったことがない人と接触すると、水ぼうそうがうつる可能性があります(帯状疱疹はうつりません)。
帯状疱疹は痛い病気としても有名です。全く痛みがない人もいますが、通常は皮疹が出てから1週間が一番痛く、改善しても1ヶ月ぐらいは痛みが続くことが稀ではありません。皮疹より先に痛みだけが出ることもあり、その場合は診断が難しくなります。初期の痛みの原因は皮膚の炎症によるものですが、その後の痛みはウイルスによる神経障害が原因、つまり神経痛です。痛みは温めると楽になることが多いです。
治療には、帯状疱疹ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬と、痛みを抑える各種鎮痛剤、神経障害を改善するビタミン剤や、皮疹を早く治す塗り薬を使います。ウイルスは皮疹が出てからの3日間で一番増えるため、早めの抗ウイルス剤内服が治療の鍵になります。痛みが長引くのを防ぐためには、初期の痛みをしっかり抑え、痛くない状態を保つことも肝心ですので、なるべく早く受診し、治療を受けましょう。
昔は、帯状疱疹には一生に1度しかかからない、と言われていましたが、最近は寿命が延びたことや生活環境の変化から、数十年後に2回目の帯状疱疹にかかることも珍しくありません(皮疹の部位は同じではありません)。疲れやすい季節の変わり目や、大きな病気をした後にかかることが多く、一番多い発症年齢は50 ~ 70 代ですが、10 代でかかることもあります。
皮疹が顔に出た場合は、目や耳に合併症が起こる可能性があり、その場合は専門医にかかることも必要になります。稀ですが、重症化すると全身に皮疹が出たり、髄膜炎になることもありますので、これがヘルペスかな?と思ったら、皮膚科を受診してください。身体が弱っている時に出る病気ですので、帯状疱疹と診断されたら、治療を受けると同時に、休養を取ってゆっくり休むようにしましょう。