(この記事は2011年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
| 放射線科 部長 山川 稔隆 |
高齢化に伴い、認知症を持つ患者数が増加し、大きな社会問題となっています。認知症はいくつかの病気が原因となって発症する病気ですが、その最も多い原因がアルツハイマー病です。
アルツハイマー病は大脳の皮質に異常なタンパク質が溜まり、神経細胞が死滅し、脳が徐々に萎縮して発症します。現在、アルツハイマー病を完治させる薬はありませんが、症状の進行を遅らせる薬(アリセプト)があり、効果が期待されています。アルツハイマー病の診断は専門医による問診と、MRIなどにより脳の萎縮を見て判断します。アルツハイマー病の脳萎縮は、側頭葉の海馬(正確には海馬傍回)と呼ばれる場所から萎縮が始まり、徐々に側頭葉→前頭葉と萎縮が広がっていきます。治療効果を高めるには、早期の段階で診断し、内服治療を早く始めることが大切です。アルツハイマー病の早期では、海馬傍回の萎縮も軽いため、MRIの画像から肉眼で海馬傍回の萎縮の程度を判断するのは困難です。この海馬傍回萎縮の判定をコンピュータで行うのがVSRAD(ブイエスラド)です(図1)。
VSRADは患者様の脳の画像を、正常者の脳の画像の平均と比較し、統計学的な解析を行い、きわめて正確に海馬傍回の萎縮の度合いを数値化してくれます。この数値が2.0以上の場合、アルツハイマー病の可能性が高いといえます。VSRADは造影剤を使用しませんので、造影剤アレルギーや副作用の心配もありません。通常のMRIと同じように検査を受けていただけます。ただ、先ほども述べましたように、アルツハイマー病の診断は画像だけで判定はせず、専門医による問診や診察で総合的に判定されますので、VSRADの数値のみで即断されることの無いようにお願いいたします。
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図1 | | 図2 |
認知症の2大原因はアルツハイマー病と脳血管性認知症(多発脳梗塞による認知症)で、これらは完治が難しい認知症なのですが、治療可能な認知症もあり、その代表が慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症です。
慢性硬膜下血腫(図2)は高齢者が頭をどこかにぶつけて(軽い外傷のことが多く、本人も気づかないほどです)、脳の表面の血管がわずかに傷ついて、脳と頭蓋骨との間にゆっくりと血腫が溜まっていき、脳を圧迫する病気です。認知症や半身麻痺などの症状が徐々に進行していきます。頭蓋骨に小さな穴をあけて血腫を吸い出すと、症状が劇的に改善します。
正常圧水頭症は、高齢のためや、くも膜下出血や頭部外傷などの後遺症のため、髄液の吸収が悪くなり、脳の中の脳室に髄液が溜まって脳室が拡張し、認知症・歩行障害・尿失禁などの症状をきたしますが、シャント手術を行い、溜まった髄液をうまく逃がしてやることで、症状は改善します。慢性硬膜下血腫にしても正常圧水頭症にしてもMRIで簡単にわかります。
西陣病院画像診断センターではVSRADを含めた頭部MRI検査を行っております。西陣病院にかかっておられる患者様だけでなく、近隣の診療所に通院されていらっしゃる患者様も、主治医のご依頼があれば当院の画像診断センターでMRI検査を受けていただけます。お心当たりのある症状をお持ちの患者様は主治医の先生とご相談ください。