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現代のミルク・アルカリ症候群について

(この記事は2017年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)



 内科 医長 平野 央


 20世紀初頭、胃潰瘍に対しては牛乳とマグネシウム製剤とを一緒に飲むという治療が行われていました。マグネシウム製剤の胃酸を中和する作用に加えて、牛乳により粘膜を保護して栄養をつけるという理論から考案された治療法です。しかしその治療法を受けた患者さんの中で、高カルシウム血症による嘔吐や意識障害を発症する場合が散見されるようになりました。
 

 マグネシウムが過剰に体内に入ることにより、副甲状腺ホルモンの分泌が低下し、それにより腎臓からの重炭酸イオンの再吸収が増えてアルカリ血症となります。その結果、カルシウムの吸収が増加し高カルシウム血症にもなります。

 高カルシウム血症は腎輸入細動脈を収縮させて糸球体濾過量を低下させ、さらに多尿による循環血液量低下が生じ、急性腎障害を引き起こします。

 このような機序により、高カルシウム血症やアルカローシス、急性腎障害が生じミルク・アルカリ症候群とよばれていました。

 PPI ※の登場により、こういった治療は行われなくなりミルク・アルカリ症候群は過去の病気となったと思われましたが、現代のミルク・アルカリ症候群とよばれる病態が出現しています。それは、骨粗鬆症に対して投与される活性型ビタミンD 製剤やカルシウム製剤にサイアザイド系の利尿薬を併用した場合で、このような場合も高カルシウム血症やアルカローシス、急性腎障害を認めることがあります。
 
 また、カルシウムを上昇させる薬剤を服用している患者さんに、便秘に対して大量のマグネシウム製剤を同時に処方した場合、同様の病態が起こり得ます。


 通院中の患者さん、特に複数の医療機関を受診し骨粗鬆症や高血圧の治療中に急性腎障害を認めた場合、しっかりと内服薬を確認することが大切です。


※PPI(プロトンポンプ阻害薬)は胃の壁細胞のプロトンポンプに作用し、胃酸の分泌を抑制するお薬です。


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嚥下について

(この記事は2017年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


坂本Dr


  内科 医長
  坂本 京子




~嚥下とは~
 食べるときや飲むときに、口に入れて飲み込むまでの行為を嚥下といいます。嚥下には
①食べ物を認識して(脳で認知すること)
②口に入れてかみ砕き(口や舌の働き)
③ごっくんと飲み込んで消化管に送り込む(舌と咽頭喉頭の筋肉、骨の働き)
までの一連の動きがあり、どこが障害されても嚥下できなくなります。


◆嚥下障害を疑う症状
・食事中にむせる、肺炎を繰り返す
嚥下障害

※認知症があると嚥下障害が発見しづらく、極度の低栄養や重度の誤嚥性肺炎を起こしてから受診されることが多いです。(誤嚥性肺炎=食事や唾液が気管から肺に入って起こる肺炎)


◆単なる加齢で嚥下障害を起こさないためにすべきこと 
栄養バランスの良い食事をよく噛んで食べる
歯が悪ければ治療する、きちんと歯磨きをする
規則正しい生活をする
適度な運動をする(散歩やラジオ体操でも良い)
日中は昼寝以外横にならない
会話を楽しむ、カラオケで歌うなど声を出す
 嚥下するには上半身の筋力が必要です。噛まずに食べられるやわらかいものばかり食べていると嚥下する力が弱ってきます。歯が悪いと、きちんと噛めずどんどん嚥下力が弱るので入れ歯を合わせることも必要です。
 日中から常に横になっていると筋力低下や骨量の減少が起こるため嚥下障害が出やすくなります。
 声を出すことで嚥下するための筋肉が鍛えられます。


◆嚥下ができなくなる原因 
脳血管障害
神経疾患(パーキンソン病など)
認知症(アルツハイマー病やレビー小体型認知症など)
甲状腺機能低下症、心不全、肺気腫など
単なる加齢
 脳血管障害や病気で嚥下障害が起こる以外に加齢でも起こります。


嚥下内視鏡と観察画面◆嚥下に関する検査 
 嚥下内視鏡検査は、鼻から耳鼻咽喉科用の細い内視鏡を入れてipad の画像でのどを観察しながら食材を嚥下していただきどのように咽喉頭が動いているか、嚥下ができそうかどうかを調べます。


VFチェア 嚥下造影はバリウムを混ぜたプリンやとろみ水、粥などを食べていただき、レントゲン透視で撮影しながらどのような姿勢や方法で食べると安全かを調べます。リクライニングが必要な場合はVFチェアという嚥下造影専用の椅子に座っていただき、どのような姿勢が最適かを細かく調整しながら撮影して今後の対策を考えます。




 当院では主に入院患者さんに嚥下内視鏡検査と嚥下造影検査を行っています。




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呼吸器外来について

(この記事は2016年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


上田先生 内科部長 上田 幹雄

 呼吸器外来では、肺や気管支などの呼吸器の病気の診療をおこないます。よくある症状は、咳がでる・痰がからむ・息が苦しい・息をする時にゼイゼイとかヒューヒューという音がする、などです。これらの症状がなくても健康診断の胸部レントゲン検査で異常が発見されることもあります。呼吸器の病気は、肺炎・気管支炎・気管支喘息・肺がん・COPD・間質性肺炎・睡眠時無呼吸症候群など多くの種類があります。
 

 COPD(シーオーピーディー)というのは、タバコや大気汚染などで肺に慢性的な炎症がおこる病気です。日本では2014年にこの病気で1万6千人が亡くなられ、日本人男性の死亡原因の第8位になっています。重症例では体を動かすと息切れがひどくなり日常生活が困難になります。呼吸困難のために日本で在宅酸素療法を受けている16万人以上の患者の半数近くがCOPDが原因です。また、軽症・中等症のCOPDであっても、わが国の悪性腫瘍死亡で最も多い肺がんや、社会の高齢化とともに近年急速に増加して死亡原因の第3位となった肺炎をひきおこしやすいので、注意が必要です。このように、高齢者の肺の健康を守り、健康寿命を維持するために、COPDの予防・診断・治療がとても大切だといえます。しかし、少なくとも530万人以上いると見積もられているCOPD患者さんのうち、正しく診断されて適切な治療を受けている患者さんは10%にも達していません。この背景には、COPDに対する社会的な認知度が低い現状があります。喫煙厚生労働省は2 012年に「21世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21【第二次】)」の目標としてCOPDの認知度向上(2022年度までに認知度80%にする)を掲げ、国を挙げてCOPDの認知度向上に取り組む方針を示しました。喫煙者でかつ4 0 歳以上で息切れがあるようでしたら、COPDの可能性があります。息切れがしても病気だと考えずに「年のせいだろう」と思い違いをしているかもしれません。是非受診して診断を受けてください。


 また、日本などの先進国では、花粉症・気管支喘息・食物アレルギーなどのアレルギー性疾患の患者さんの数が増加しています。アレルギー性疾患のなかで呼吸器外来で対象となるのは気管支喘息です。気管支喘息はかつて日本で年間5千~6千人が亡くなられる病気でした。成人の気管支喘息患者数は、この30年間で3倍に増加し、人口の3~6%が罹患していると考えられています。しかし、昨今の治療法の進歩で、患者数は増えたにもかかわらず死亡数は2千人を下回るまでに減っています。気管支喘息の患者さんは、この最新の治療の恩恵を受ける機会を逃さないことが大切です。


 呼吸器外来では、より専門的な検査や治療が必要だと判断すれば高度専門病院と連携する体制にもなっていますので、気になる症状があればまずはご受診いただければと思います。

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感染制御チーム( ICT:Infection Control Team)

(この記事は2015年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


副院長 柳田 國雄

 病院には多くの方が出入りされ、また入院されています。その中には感染症にかかっている方や子供さん、お年寄り、抵抗力の落ちている方などがおられます。そのような医療環境の中で感染が起きないように予防したり、院内での感染の発生をできるだけ早く発見し、拡げないように迅速に対応しているのが『感染制御チーム(ICT)』です。
 

 

 ICTは医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学士など多職種から構成されており、各専門分野から知恵を出しあって、患者さんとその家族の方だけでなく、院内で働くすべての人、来院するすべての人を感染から守るための活動をしています。その活動としては、

(1)院内での感染発生動向に関する調査・報告・対応
(2)感染拡大(アウトブレイク)への迅速な調査と制御
(3)職員への感染管理教育、感染防止技術の周知・徹底
(4)抗菌薬の適正使用活動
(5)感染対策マニュアルの作成や改訂
(6)職業感染対策-職員のB型肝炎、流行性ウイルス感染症(麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎)などの抗体チェック・ワクチン接種推奨、針刺し事故対策
(7)感染症診療に関連する相談
(8)医療環境の整備
(9)地域や国内外での感染発生動向に関する情報提供(最近ではエボラ、MERS、デング熱、手足口病の流行など)
(10)感染症流行時の対応(インフルエンザ、ノロウイルスなど)

など多岐にわたっています。また、平成24年からは地域連携の感染対策として京都府立医科大学と京都市内の2病院と連携し、年4回合同でカンファレンスを行い、相互ラウンド(お互いの病院を訪問して評価し合う)なども行って感染対策業務のレベルアップを図っています。



 当病院では、すべての患者さんが病院内で新しい感染を起こさないように、医療環境の清潔を保ち、職員の感染教育を徹底し、抗菌薬の適正な使用を進めるよう努力しています。「すべての血液・体液(汗を除く)・排泄物はすべて何らかの病原体を持っている可能性があるものとして取り扱う」という標準予防策が院内感染対策の基本です。その最も大切で、簡便な感染予防手段はマスクと手洗いです。皆様にも、来院時や、病室への入退室時に意識して手洗いをお願いしたいと思います。目に見える汚れがあれば流水と石鹸での手洗い、その他は病室に備え付けの速乾性アルコール消毒剤で手を擦り合わせて手洗いをして下さい。

 しかし、そのような努力をしても抗菌薬が効きにくい、あるいは効かない菌が検出されることがあり、これらを『耐性菌』と呼んでいます。多くの耐性菌の病原性は弱いので健康な人にはあまり問題ないことが多いのですが、高齢の患者さん、抵抗力が落ちている患者さんには大きなダメージになることがあります。耐性菌の多くは、患者さん、家族、面会の方、医療スタッフなどの手を介して感染が拡がります。やはり、手洗いが大事ということです。、ICTは病院内の耐性菌の検出状況を把握し、それらが拡がらないように防いでいく努力をしています。適切な感染対策により、患者さんにとって安心な、その家族の方々や医療従事者にとっては安全な医療環境を提供できるようにこれからも努力していきたいと思います。

 今後とも皆様のご協力をよろしくお願いいたします。

 最後に、今年もインフルエンザの季節がやってきました!インフルエンザは普通の風邪とは違い、高熱や関節の痛みなどを伴い、高齢者や基礎疾患(糖尿病、慢性呼吸器疾患、抗がん剤や免疫抑制剤の使用など)のある方は重症化するおそれがあります。感染は、飛沫(くしゃみや咳)、接触(手指を介して)で拡がります。インフルエンザの感染を拡げないために、皆が「かからない」「うつさない」ことが重要です。その感染予防のためには「ワクチン接種」、「こまめな手洗い」「マスクの着用」などが重要です。インフルエンザワクチンは今季から含まれるウイルスのタイプが従来の3種類から4種類に増えました。効果が高まると考えられ、リスクの高いと考えられる方は是非接種をお願いします。

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糖尿病の最近の診断、治療について

(この記事は2015年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)

糖尿病


  内科  矢野 美保




 平成24 年国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」は約950 万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」は約1100 万人と両者の合計は約2050 万人にのぼっています。糖尿病は、放置すると、眼・腎臓・神経などに細小血管合併症を引き起こします。また、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化症も進行させます。糖尿病について理解を深めていただくために、最近の診断・治療について説明します。

 まずは、糖尿病の診断ですが、2010 年より診断基準は変更されています。①空腹時血糖値126mg/dl 以上、ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dl以上、随時血糖値200mg/dl以上、②HbA1c 6.5%以上で、①が2 回、あるいは①+② が認められた場合に診断されます。また、HbA1c は2012 年4 月より日常臨床でも国際標準値に統一され、従来(JDS)の値に0.4%を加えた値になりました。2014 年からはNGSP 値のみの表記となっているため、以前の血液検査と比較するときは注意をしてください。

 日本人の2 型糖尿病患者さんを対象としたある調査において、過去1~2 ヶ月の血糖の平均値を反映する臨床検査値であるHbA1c が6.9% 未満であれば細小血管合併症の出現する可能性が少ないことが報告されています。また世界的には大規模な臨床研究が行われ、その結果に基づいて合併症予防のための管理目標値として、HbA1c 7% 未満を推奨しています。これに基づいて、2013年より、血糖の管理目標が下記のように変更されました。



 次に最近の治療薬の説明をします。昨年春より、SGLT2阻害薬が発売されています。血液中の過剰な糖を尿中に排出させることで血糖値を改善させる薬剤で、低血糖リスクの減少、体重減少効果が期待されています。ただし、高齢者や利尿剤を併用しているなど、脱水傾向になりやすい方には適しません。また、合併症としては、尿糖が多いための尿路感染、また、薬疹の報告なども認められています。現在すでに内服を開始しておられる方も、夏は特に脱水予防のために水分(お茶や水)補給をしっかりとしてください。

 インクレチン関連薬も現在、DPP4 阻害薬は内服、GLP-1 受容体作動薬は注射薬として発売されています。インクレチンとは食事を摂取したときに十二指腸や小腸から分泌されるホルモンで代表的なものにGLP-1 があり、血糖値が上昇すると膵臓からインスリン分泌を促す、高血糖時に血糖を上昇するグルカゴン分泌を抑える作用があります。インクレチンは体内でDPP4 という酵素によって分解され、その効果は数分しか持続しなかったため、DPP4 の働きを妨げてインクレチンの働きを助ける薬剤のDPP4阻害薬ができました。DPP4 阻害薬は以前、併用薬が限られていましたが、今はインスリンも含めて併用可能となっているものが多くなり使用しやすくなっています。DPP4 阻害薬、GLP-1 作動薬の中には週1回のものも最近でてきており、毎日の内服・注射が困難な方にも適応範囲が拡大しつつあります。インスリンも持効型のインスリンのうち、効果持続時間が24 時間以上のものも発売、今後、低血糖頻度が改善したインスリンも開発中です。

 どの薬を投与されている方でも、基本は適切な食事療法、運動療法が必要で、内服で血糖値が安定しているからといって食事療法を怠っていると、1年ほどしてから、効果がなくなるといった報告もあります。くれぐれも注意してください。

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