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最近の消化器内視鏡の進歩について

(この記事は2009年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


内科部長 葛西恭一

径1センチ程の管の先端についたカメラで消化管(食道・胃・小腸・大腸)を観察するための道具である消化器内視鏡は日本において開発され、今や世界中で活躍しています。これまで新しい技術や工夫により機器の改良が加えられながら、消化器内視鏡は進化してきました。今回は、最近新たに開発され実用化されているものについて紹介します。


特殊光観察

従来の内視鏡は白色光(通常の光)をあてて粘膜を観察していましたが、ある特定の波長の光を当てることで病変と正常部分がより明瞭に識別できることがわかり実際に使用されています。現在実用化されているものとして、NBI(Narrow Band Imaging)とFICE(Flexible intelligent color enhancement)というシステムがあり、当院ではNBIを採用しています。NBIは、血液に吸収されやすい青色と緑色の光だけを粘膜に当てることにより、粘膜内の血管がより明瞭に観察されるという原理を利用した内視鏡です。さらに、NBIで得られた画像を約100倍に拡大することにより、毛細血管まで詳細に観察できるようになりました。この技術により、いままでわかりにくかった癌と正常粘膜の境界がわかりやすくなり、癌の早期発見や内視鏡治療に役立てることが可能となりました。


小腸内視鏡

小腸は、口からも肛門からも内視鏡が届きにくくしかも全長が6〜7mと非常に長いため内視鏡で観察することは難しく、別名“暗黒大陸”と呼ばれていました。小腸内視鏡として、「カプセル内視鏡」と「ダブルバルーン小腸内視鏡」が最近実用化されました。カプセル内視鏡は名前の通り、先端にカメラが内蔵されたカプセルを飲み込み、腸の蠕動運動により腸の中を進みながら自動的に鮮明な(通常の内視鏡と遜色ありません)写真を撮ります。患者さんの苦痛は全くない検査で、まさにSF映画の世界が現実になったと言えるでしょう。ダブルバルーン小腸内視鏡は、先端に風船(バルーン)が装着された細長いチューブの中に、やはり先端に風船が装着された内視鏡を通してあり、二つの風船を交互に膨らませたり縮めたりしながら長い小腸を手繰り寄せて内視鏡を進めていきます。(風船が一つのシングルバルーン内視鏡も実用化されています。)いずれの内視鏡も、これまでできなかった全小腸の観察ができるというすばらしいものです。これらの内視鏡はまだ限られた施設でしか使用されていませんが、今後小腸の病気が疑われた場合は、まずカプセル内視鏡で病気が有ることを確認した後にダブルバルーン小腸内視鏡(またはシングルバルーン小腸内視鏡)により正確な診断や治療を行うことが当たり前になってくると予想されます。

カプセル内視鏡 カプセル内視鏡

ダブルバルーン小腸内視鏡 ダブルバルーン小腸内視鏡


経鼻内視鏡

これまでの胃カメラは径が約1センチ弱で、口からノドを通る際にどうしても違和感があり、“オエッ!”としてしまう方が多かったと思います。経鼻内視鏡は径約5ミリと細く、鼻の穴から入れるためノドの奥を刺激せず“オエッ!”とすることがほとんど無く楽に検査が受けられます。このため、主に開業医の先生や人間ドックで積極的に使用される様になってきています。問題点として、画質が通常径のものより劣ることや鼻の穴が狭い患者さんでは痛くて入らないといったことがあげられます。このため当院では、原則として通常径の内視鏡(ハイビジョンの最高画質です)で検査をすることとをお勧めしていますし、以前の検査で苦痛が強かったとおっしゃる患者さんには鎮静剤を注射して通常径の内視鏡でも楽に検査が受けられる様配慮しています。(なお、経鼻内視鏡は常備しておりますのでご希望の方は内視鏡担当医とよくご相談ください。)

| Copyright 2009,04,27, Monday 07:36pm administrator | comments (x) | trackback (x) |

 

大腸憩室と大腸憩室炎

(この記事は2008年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


内科部長 竹中信也

 大腸の壁の部分的に弱くなったところが、外側に袋状にふくらんだ状態を憩室と呼びます。

 憩室が出来る原因はいろいろありますが、その一つとして、腸内の圧力(腸管内圧) の上昇があげられます。慢性の便秘があると腸がふくらみ、排便時に力んだりすると腸管内圧が上昇し、次第に腸の壁の弱い部分がふくらんでいきます。ストレスなどの精神的緊張でも大腸の収縮が高まり、腸管内圧が上昇します。
 
 大腸憩室は頻度の高い疾患で、アメリカ人では60歳以下の50%に、80歳以下ではほぼ全員に認められるそうです。欧米では大腸の左側にあるS状結腸で憩室が見つかりやすいのに対し、日本人は右側にある上行結腸に多いと言われています。日本でも近年、食事の欧米化により食物繊維の摂取が減少し、大腸憩室を持っている人が増加しています。

 憩室があるだけでは症状はなく、治療の必要はありません。しかし憩室に便などが詰まって炎症を起こすと、憩室炎となり問題となります。

 憩室炎とは、憩室が炎症や細菌感染を起こした状態のことを言います。腹痛、悪寒、発熱、排便習慣の変化といった症状が起こります。多量の出血(血便)が起こることもあります。重症例では腹膜炎になったり、膀胱および脛へ穿孔を起こしたり、腸管の壁が破裂したりします。

 軽い憩室炎を繰り返していると、瘢痕により腸管が細くなり、ひどい便秘に悩まされる事もあります。

 軽症では抗生物質を服用し、食事を制限することで治療を行います。場合によっては緩下剤を使用することもあります。

 重症例では入院を要し、絶食にして抗生物質の点滴を行います。腸に穴が開いてしまった場合(大腸穿孔)には、外科的手術となることもあります。多量に出血(血便)を認める場合には、緊急内視鏡(大腸カメラ)を施行し、出血している憩室をクリッビングして止血します。それでも止血できないときは、血管造影で出血している血管を塞栓させます。輸血が必要になる場合もあります。

 憩室炎を疑う症状が現れた場合は、できるだけ早く消化器内科を受診してください。大量の出血(血便)を認めた時には、迷わず救急車を呼びましょう!
大腸1


 大腸憩室は再発しやすいので、日頃から野菜などの繊維質の多い食べ物を多く取りましょう。その際には良く噛んで食べてください。歯が悪い方は、食物繊維の多く含まれる飲み物がお勧めです。また、お薬で排便コントロ-ルをしておきましょう。

 予め、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で憩室の数、場所を確認しておくと、憩室炎の診断治療がスムーズに進められ、重症化を防ぐことができますので一度、主治医に相談してみてください!

| Copyright 2008,03,01, Saturday 09:00am administrator | comments (x) | trackback (x) |

 

胃食道逆流症について

(この記事は2007年5・6月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


内科 葛西恭一


 口から飲み込まれた食物は、喉を過ぎると食道という細い管を通った後に胃の中に入って消化が始まり、栄養分・水分が腸で吸収され、便となって肛門から排泄されます。

 胃食道逆流症(GERD)とは、噴門部(胃の人り□)が緩むことにより胃酸などの胃内容物が食道へ逆流するために自覚される症状のことで、逆流性食道炎とも呼ばれます。症状としては「胸焼け」が代表的で、「げっぷ」「食事がつかえる感じ」「胃のもたれ」などを自覚されることが多いです。これらの症状以外に、「胸の痛み」、「背部の痛み」、「咳」、「喉の不快感」 など様々な症状として自覚されるため、循環器科や呼吸器科、耳鼻咽喉科を受診されることもしばしばあるようです。肥満傾向の人、コルセットなどにより腹部を圧迫している人や、腰が曲がった高齢者などに多く、特に飲酒後や甘いもの・脂の多いものを食べた後、食後にすぐ横になると症状が出やすいと言われています。

 以前は高齢者に多い病気と考えられていましたが、近年の生活習慣の欧米化に伴い20歳代や30歳代の若年者に発症することも多くなってきています。GERDの患者様を胃カメラで観察すると、噴門部は緩み、食道粘膜は炎症を起こして潰瘍を形成し、重症の場合は出血を伴うため吐血の原因になる場合もあります。
治療法としては、第一に生活習慣の改善が挙げられます。
 ・体重を減らすこと、
 ・食後すぐに横にならないこと、
 ・コルセットなどによる腹部の圧迫に注意すること、
などが必要です。夜間に症状が強まる場合は、なるべく頭の位置を高くすることで胃酸の逆流を少なくすることができます。薬物治療としては胃酸を弱める薬(プロトンポンプ阻害剤など)の効果が高く、GERDの患者様の大半に投与されています。

 しかし、生活習慣の改善が不十分な場合は薬を減らしたり中止したりすると再び症状が出てくることが多く、長期間投与が継続される場合があります。薬物治療の効果が乏しい場合や中止が出来ない場合、外科手術が行なわれることがありますが極めて稀です。

 また、ごく一部の施設では胃カメラを用いて緩んだ噴門部を縫うことが可能となってきましたが、まだ一般病院には普及してはいません。

 最近、〝食道に炎症所見を認めない胃食道逆流症(NERD)″が注目されるようになってきました。詳しく検討してみると、NERD患者様のおよそ半数はプロトンポンプ阻害剤の効果がないといわれています。この場合は胃酸ではなくストレスや不安、緊張などが原因とされ、食道運動の低下や食道粘膜の知覚過敏を生じていると考えられています。このため、消化管運動機能改善薬や抗不安薬などが効果を示す場合も多いようです。

 GERDやNERDは近年増加してきておりその診断は比較的簡単ですが、画一的な治療法には限界があるため患者様ごとに最適な治療法を検討していく必要があると考えています。「胸焼け」や「げっぷ」などの症状があるかたはGERDの可能性がありますので一度消化器内科受診をお勧めします。

| Copyright 2007,05,01, Tuesday 10:10am administrator | comments (x) | trackback (x) |

 

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