その他::催しの紹介など
看護の日 「忘れられない看護のエピソード」入賞
(この記事は2016年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
看護部長 中島 美代子
去る5月8日に東京の日本看護協会JNAビルで第6回「忘れられない看護のエピソード」の表彰式が行われ、西館4階病棟看護科長の金澤香織さんの『起死回生の誕生日』が入賞作品として表彰されました。
「忘れられない看護エピソード」は、「看護の日・看護週間」事業の一環として看護職、一般の方々から看護にまつわる心温まるエピソードを募集したもので、毎年、看護週間の期間中に表彰式を開催しています。今年は全国から3305作品が集まり、20作品が受賞作品として選ばれました。
今回は、入賞した金澤さんの作品を紹介いたします。
起死回生の誕生日
〈京都府〉 金澤 佳織
暑さが厳しい夏だった。仕事盛りの50代の患者さんが自ら「終活だ」と言って入院してきた。珍しいがんにかかり、在宅で病気と闘っていたが、激しい痛みのため、毎日寄り添って共に闘ってくれた妻についあたってしまい、妻のほうが倒れる寸前だったこと、仕事人間で家庭のことは妻に任せきりで、これから旅行などをして妻への孝行をしたかったことを入院してきた日に寂しそうに話してくれた。
仕事上の付き合いも多かったのだろう。入院してから面会は途絶えることはなかった。患者さんの奥さんへの看護も自分の役割だと感じ、初めて会った日から声を掛け、今までの苦労話などに耳を傾ける日が続いた。入院して2カ月もすると、患者さん、奥さんの3人で昔の話や、どんな夫でどんな父親であったか、どんなに妻が尽くしてきたかなど、笑いを交えながら話せる関係になっていた。
7月19日、「妻が過労で倒れた」と、患者さんが何とも言えない悲しい表情で私に訴えた。「自分のことでみんなに迷惑を掛けているのではないか」。脳への転移もあり半盲状態であったが、よほどいつもそばにいてくれた奥さんがいないのが悲しかったのだろう。必死でメールを打とうとしていた。その傍らで話を聞きながら、ふとメールに目をやると、メールアドレスの数字に目がいった。
「7・20」
「もしかして奥さん、あした誕生日ですか?」と尋ねると「おー、本当や。忘れてた! 看護師さんに足向けて寝られんな!」と急に少年のような顔になり興奮していた。病室から出られないので代わりに花を買ってくることになった。ひまわりの花がリクエストであった。
7月20日、昼過ぎに奥さんが来ることを想定し、大きなひまわりの花と誕生ケーキを持って行った。満面の笑顔でしんどい体で入り口に近いソファに得意げに座っていた。コンコン、とドアをノックする音が聞こえ、扉が開いた瞬間、奥さんの目からは涙がこぼれていた。その横で「起死回生の誕生日や!」とさけぶ本当に幸せそうな笑顔と、ひまわりの花束が病室を優しく包んでいた。
| Copyright 2016,07,01, Friday 12:00am administrator | comments (x) | trackback (x) |