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頚椎症性脊髄症について

(この記事は2017年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


北中先生整形外科 医長 北中 重行


 頚椎症性脊髄症とは、脊柱管を構成する骨性要素や椎間板、靭帯性要素などによって頚部の脊柱管や椎間孔が狭小となり、脊髄や神経根の絞扼性障害をきたして症状の発現した状態を言います。簡単に言うと、首における神経の通り道が狭くなり症状の発現した状態です。

北中先生
 頚部痛などは一般になにかあったとしても軽度で、手指あるいは足のしびれ感や知覚異常で発症することが多く、症状が進行するに従って、手指巧緻運動障害や歩行障害を認めます。

 手の症状としては、箸が使いにくい、ボタンかけがしにくい、書字がしにくい、つかんだ物をよく落とすなどが挙げられます。下肢症状としては、歩行時のふらつき、小さな段差でもつまずくことなどが挙げられます。

 また膀胱直腸障害が出現することもあり、男性では前立腺肥大症、前立腺炎など、女性では骨盤臓器脱や婦人科系疾患などが合併している可能性もあり、それぞれ泌尿器科、婦人科での受診も必要となることもありますが、頻尿、尿失禁、排尿遅延、尿流低下、残尿感、便秘などが挙げられます。

 治療法は、保存療法と手術療法に分かれます。保存療法では、薬物療法、装具療法、生活指導(洗濯の物干し、うがい、空を見上げるなどの頚椎が過度に後屈することを避ける)などが挙げられます。

 患者さんが手術を希望しない程度の軽症例において保存療法と手術療法の成績は3 年の経過で有意差はなく、重症例では手術療法群では良好に改善したのに対して、保存療法群では悪化傾向を認めたという根拠に基づいた報告や罹病期間(症状が出現してから手術までの期間)と術前の重症度は予後と相関するという、これも根拠に基づいた報告があります。

 要するに軽症例ではまず保存療法が第一選択となります。しかし、罹病期間が長く、術前の重症度が高い症例では、十分な改善が得られにくい傾向にあるため、日常生活に支障を来す場合や症状が進行性に悪化する場合はできるだけ早期の手術療法が必要になります。さらに、急速に進行する神経症状、筋力低下、膀胱直腸障害などは絶対的な早期の手術適応となります。

 近年の医療進歩とともに、高齢者(70歳以上)に対する手術も増加してきていますが、手術療法により各年代ともほぼ同等の手術成績が期待でき、高齢という理由だけで手術回避を強く勧める理由とはなりません。

 手術適応と判断された患者さんにおいて、罹病期間が長く、重症化すると、前述した通り、十分な改善を得られないことがありますので、適切な時期に手術療法を受けることが重要です。

 当科では、患者さんの意欲、意思を尊重し、保存療法、手術療法ともに積極的に行っておりますので、前述したような症状があれば、いつでもお気軽に御相談頂ければ幸いです。

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腱板断裂について

(この記事は2015年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


 整形外科 医長
 祐成 毅


 肩関節の回りには、肩を安定させて動かすために大切な腱板と呼ばれる筋肉があります。腱板は、前から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の4つがあり、腱板断裂とは腱板のいずれかが切れた状態を言います。


 腱板断裂を生じる原因としては、主に外傷および加齢による変性があげられます。外傷には、転倒や転落での外力によるものから急激に腕に加えられた外力、重たいものをよく持つなど繰り返される小さな外力によるものまで含まれます。腱板の変性は40 歳頃から徐々に進行し、進みやすい生活習慣や疾患として、喫煙や糖尿病などが報告されています。

 腱板断裂を生じていても、症状のない方もおられます。ある調査では肩が痛くなったことのない50 歳以上の約20%に腱板断裂を認めたという報告もあります。しかし、病院を受診される方のほとんどは、何らかの症状を認めます。

 典型的な症状は、「肩が痛い」、「肩の動きが悪い」、「肩に力が入りにくい」の3 つです。痛みは、夜間に強くなったり、肩を動かしている途中で生じたりすることが多いですが、安静にしていても生じることがあります。

 画像診断では、レントゲン、超音波検査、MRI(図1)が有用です。特に超音波検査は、近年画質もきれいになり外来で侵襲なく簡便に行うことができますし、MRIもさまざまな撮像方法が開発され、診断能力が向上しています。当院でもそれらを取り揃えていますので、受診され必要と判断した場合は、検査を行います。

 腱板断裂は、小、中、大、広範囲と断裂の大きさによって4つに分類され、治療の方針に影響します。

 治療には保存療法および手術療法があります。一般的に、腱板が一度断裂すると断裂部位の自然治癒はなく、断裂の大きさも徐々に大きくなっていきますが、保存療法で症状が改善することもあります。痛みが強い時期には、痛みを伴う動作を禁止し、安静のために三角巾などで固定を行う場合があります。また、痛みの程度に応じて消炎鎮痛剤や筋弛緩剤、安定剤などの薬物療法、ヒアルロン酸やステロイドなどの関節内注射を行います。痛みが軽減してきますと、肩の保温につとめて頂きながら、肩を動かし、残っている腱板の筋力をつけるためのリハビリテーションを行います。保存療法で症状が改善した後も再発することが多いため、定期的に診察を受けて頂くことが大切です。

 保存療法で症状の改善がない場合や若年者、重労働者などの活動性の高い方では、手術療法が選択されます。小、中断裂に対しては、関節鏡を用いた鏡視下腱板修復術(図2)が主に行われます。1cm未満の小切開を4~5ヵ所行うだけの小さな侵襲で手術が可能です。大、広範囲断裂に対しては、関節鏡のみで対応可能な場合もありますが、多くは関節鏡を行った後、皮膚切開を1ヵ所4-5cm程度に延長して、直接腱板を見ながら修復します。修復の際、金属性あるいは吸収性のアンカーを、腱板が元々付着していた上腕骨に打ち込み、アンカーから伸びた糸を、断裂した腱板の断端にかけて縫合します。術後は、再断裂や疼痛の増強を防ぐために装具固定を行い、作業療法士によるリハビリテーションを受けて頂きます。上述した腱板の修復が困難なほど、腱板の状態が悪い場合は、手術可能な施設や適応は限られますが、平成26年から日本でも導入された人工逆肩関節全置換術(図3)を行うこともあります。

 腱板断裂は、よく知られている四十肩や五十肩と症状が似ており、様子を見て状態が悪くなる方もしばしばおられます。前述した症状がある場合は、ぜひ整形外科を受診して下さい。

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腰部脊柱管狭窄症

(この記事は2015年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


北中先生整形外科 医長 北中 重行



 腰部脊柱管狭窄症とは、少し難しい言い回しをすると、脊柱管を構成する骨性要素や椎間板、靭帯性要素などによって腰部の脊柱管や椎間孔が狭小となり、馬尾や神経根の絞扼性障害をきたして症状の発現した状態を言います。簡単に言うと、腰における神経の通り道が狭くなり症状の発現した状態です。


 典型的な症状は、間欠跛行(歩行で下肢の痛み・しびれ感・つっぱり感が出現し、前かがみで少し休むとまた歩けるようになる症状のこと)、下肢痛、下肢しびれ感であり、各症状は腰部の姿勢や動作で変化します。たとえば、臥位や座位で軽減し、立位や歩行で悪化、また、立位でも後屈で増悪し、前屈で軽快します。

 歩行することによって、硬膜管への圧迫力が増加することにより症状が悪化し、立ち止まって前屈することにより、硬膜管への圧迫力が減少するため、症状が軽減します。シルバーカーや自転車では、前屈の姿勢になるため、硬膜管への圧迫力が軽減し、普通に歩行するよりも症状が出にくくなります。



 治療法は、保存療法と手術療法に分かれます。初期治療の原則は保存療法です。

 保存療法では、薬物療法、理学療法、運動療法、神経ブロック療法などが挙げられます。軽度ないし中等度の症例では、保存療法は、最大70%の患者さんに、重度の症例では、33%の患者さんに有効とされています。

 保存療法が無効で、日常生活に支障を来す場合、手術療法が推奨されます。日常生活に支障を来すレベルが個々の患者さんで異なるため、患者さんそれぞれで手術適応が異なります。たとえば、5 分の間欠跛行を認める患者さんにおいて、痛みなく止まらずに歩きたいと望む患者さんに対しては手術適応ですが、基本的に家で過ごされ、歩くのはせいぜいトイレやお風呂程度で十分と言われる患者さんに対しては手術適応とはならず、そのまま保存療法で経過をみることもあります。しかし急速に進行する神経症状、筋力低下、膀胱直腸障害などは絶対的な手術適応となります。

 手術療法の成績は、4-5 年の経過で約75%の患者さんにおいて良好、8-10 年以上になると良好な成績を維持している患者さんは約65%と言われています。特に年齢による成績の差はなく、75歳以上の患者さんは、手術療法により65歳以上75歳未満の患者さんとほぼ同等の手術成績を期待でき、高齢という理由だけで、手術回避を強く勧める理由とはなりません。

 手術適応と判断された患者さんにおいて、罹病期間が長すぎると十分な改善を得られないことがありますので、保存療法が無効な患者さんは、適切な時期に手術を受けることが重要です。


 当科では、患者さんの意欲、意思を尊重し、保存療法、手術療法ともに積極的に行っておりますので、前述したような症状があれば、いつでもお気軽に御相談頂ければ幸いです。


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手根管症候群について

(この記事は2014年3・4月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


整形外科 部長 牧之段 淳

 夜中や明け方手がしびれて目が覚めることはないでしょうか?進行すると1日中しびれ感が持続し、指の感覚が鈍くなり、さらにひどくなるとボタンをつけはずしたり、ペンを握ったり、物をつまんだりするなどの動作がしにくくなってしまいます。このような症状があれば手根管症候群かも知れません。

 手根管とは手首にあるトンネルのことを言います。このトンネルの中に指を曲げる屈筋腱ときし麺くらいの太さの神経(正中神経)が通っています。屈筋腱が腫れたりすると神経が圧迫され、小指以外の4 本の指にしびれ感が生じます。診断は上記の特徴的な症状があれば分かりやすいですが必ずしも夜中や明け方にしびれ感を伴うわけではありません。当院では神経伝導検査を行うことができますので本検査で診断のみならず重症度を判断することができます。治療については軽症ならビタミンB12などの内服による保存的治療、筋委縮を伴うようなら手術的治療になります。手根管症候群にかかられる方は腱鞘炎を伴うことも多く手指を酷使しないことが大切です。

 手術の場合、手掌を数cm切開して直接手根管を開放する方法と内視鏡を使って手根管を開放する方法の2 通りあります。当院では11年前から内視鏡を用いて手術しています。術後はすぐにしびれ感が消失することは少なく徐々に改善し1年もすれば多少指先にしびれが残存していてもほとんど気にならないとおっしゃる方が大多数です。





 思い当たる症状があれば整形外科受診をお勧めします。


◆鏡視下手根管開放術について

 当院では2003 年から今日まで300 件を超える鏡視下手根管開放術を行ってきました。当院の手根管症候群治療の最大の特徴は電気生理学的検査を行って重症度を評価し、術後も約1年間神経伝導検査を行い客観的に術後成績を評価していることです。今までの経験が蓄積されておりその結果に基づいた的確な説明を行っております。手術の約6 割は近隣の医療機関からの紹介によるもので、結果は随時紹介先にお知らせさせていただいています。手術は局所麻酔で行う日帰り手術で手術時間は約20 分です。患者様にはモニターで手術を見ていただくことも可能です(実際には見たくないとおっしゃられる方が多いですが)。抜糸は6日後です。


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脊椎外来について

(この記事は2013年9・10月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)


髙取良太医師 整形外科 医長 髙取 良太


 当院では15年以上前より京都府立医科大学整形外科教室の関連病院として、地域の皆様の脊椎脊髄病疾患診療に携わってまいりました。このたび平成25年4月より髙取が再度着任し、常勤医師1名 (日本脊椎脊髄病学会 脊椎脊髄病医)、非常勤医師2名 (2名とも日本脊椎脊髄病学会 指導医) による脊椎外来を行う体制を整えました。火曜日、木曜日は髙取 (午後一部予約制)、水曜日 (予約制) 長谷 斉先生、金曜日 (予約制) 池田 巧先生がそれぞれ担当しております。今回脊椎外来のご紹介をさせていただきます。

 脊椎外来は首・背中・腰の痛みや手足のしびれなど、脊椎脊髄病疾患を専門的に診察する外来です。MRIや脊髄造影検査などの画像検査と専門医による診察に基づいた診断と治療方針の決定を行い、症状や病態に合わせて薬や神経ブロックなどによる保存的治療や神経圧迫除去術 (除圧術) や脊椎固定術などの手術治療を行います。

 特に高齢化社会を迎え、腰痛や手足のしびれなどの症状を有する方が非常に多く、数多くの外来治療とともに、当院では脊椎手術を年間50-70件程度行っています。平成25年4月から6月までの3ヶ月間では20件の手術治療を行っており、その内訳も頚椎除圧手術4件、腰椎除圧手術 (ヘルニアを含む) 11件、脊椎固定術 5件 (頚椎1件、胸腰椎2件、腰椎2件) と様々な疾患・術式に対応しています。顕微鏡ないしは内視鏡を用いた筋肉・関節温存に配慮した除圧術や、経皮的手技や術中神経モニタリングを併用した脊椎固定術など、全ての手術治療において体にできる限り負担が少なく安全な低侵襲手術を心がけております。基本的に手術翌日から歩行訓練を開始し、2、3週間程度の入院治療を行っています。

 当院の特徴としましては、ご高齢の患者様、様々な内科疾患をお持ちの患者様、血液透析患者様など、一般的に手術を受ける際のリスクとされる要素をお持ちの患者様が多いことが挙げられます。当院では幸いなことに、かかりつけの近隣の先生方や当院内科・外科・泌尿器科など各科医師との連携が非常に密であり、麻酔科医師による周術期管理を含めて充実したチーム医療体制が引かれております。そのため他院では敬遠されがちなリスクが高い患者様においても、安心・安全の脊椎手術治療に努めることができています。様々な症状、病気でお悩みの患者様がございましたら、ぜひかかりつけの先生にご相談いただき、地域医療連携室をご利用の上、当院整形外科脊椎外来にお越し頂ければ幸いです。

西陣病院TEL番号 075-461-8800 (代表)
地域医療連携室専用FAX番号 075-465-7327

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