診療に関すること::内科(循環器内科)
心房細動と現在使用されている抗凝固薬について
(この記事は2014年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
内科 医長 小林 由佳
“不整脈って今まで言われたことがあります”と、外来中によく聞くことがあります。どんな不整脈と言われましたか?と聞くと、“脈が乱れていると言われた”とか“不整脈だけど心配ないって言われた”と答えられる方も少なくないです。確かに薬などで治療を必要としない不整脈もありますが、重篤な合併症を引き起こす不整脈はしっかりと知ることが重要かと思います。
その中で頻度が高くなってきている不整脈として、“心房細動”があります。最近は新聞でも取り上げられたりして、外来中にも質問を受けることが多くなってきました。心房細動について簡単にまとめてみます。
~1 心房細動とは~
心臓の1拍とは、上の部屋(心房)から刺激が出て、その電気信号が下の部屋(心室)に伝わることで起こります。通常心房から起こる刺
激は規則的な間隔であり、1分間で60~100回となります。しかし心房細動は文字通り、心房が細かく震えて動くために不規則に1分間で300回以上の刺激を出してしまいます。そのうち何割かが心室に伝わってしまい、人によっては心臓が速く不規則に拍動したり、逆に伝わらずに脈が遅くなったり、見かけ上は60回~100回で落ち着いていることもあります。
心房細動の発症のきっかけは、アルコールや睡眠不足、精神的ストレスなどもありますが、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、弁膜症(心臓の弁
の機能低下)などの心臓病や、慢性の肺疾患がある方は起こりやすく、加齢による心房組織の変化・機能低下でも発症してきます。そのため、心房細動は年齢が上がるにつれて発生が高くなり、2010年の約80万から、20年後の2030年には約100万人になるのではないかと予測
されています。また検診でも40歳以上を対象とした場合、約100人に1人の割合で心房細動が見つかり、80歳以上に対象を絞ると女性2.2%、男性4.4%の割合で心房細動は潜んでいるとも言われています。
~2 心房細動が引き起こす合併症とは~
1脈の速さが不安定
心房細動そのものは、それだけでは必ずしも命とりになる重篤な不整脈というわけではありません。問題は、心房細動が細かく速く、不規則に震えて動いている点にあります。心房から心室へ電気刺激が伝わりすぎて脈が速い方は、自分は安静にしていても心臓だけは全力で走っている状態となっています。そうすると最初のうちは心臓も予備能力があるので頑張れますが、そのうち疲れてしまい、心臓のポンプとしての機能が低下してきて、心不全を起こします。また逆に、電気刺激が伝わらなさすぎると、心拍数が激減します。脳に3-5秒間血流が低下すると失神のリスクが出てきますので、脈が遅すぎるとふらつきや目の前が真っ暗になる、失神して倒れるという事態になります。脈を測って正常のように見えて安定してしまっている場合は、上記のことは起こりにくい反面、心房細動であることに気付きにくいと言えます。また脈が速い・遅いはその時の状況で変わってしまうこともあり、自覚症状も出ない人もいます。
2 血栓が出来やすい
これが一番恐れられている合併症と言えます。血管の中で血は固まらないのですが、例えばけがをした時にかさぶたが出来ます。これは血流が遅くなる、もしくは止まってしまうために血は固まる方向に働くからです。これと同じことが心臓の中で起こってしまいます。心房細動になると、規則正しく心房が収縮出来なくなるために、心房内の血液の流れが遅くなってよどんでしまい、心房の中で血の固まり(血栓)が出来てしまうと言われています。これが心臓から動脈に沿って流れて、脳に飛んで行った場合、通常の脳梗塞と違って比較的大きな血管を突然閉塞させてしまいます。これが心原性脳塞栓症です。心房細動がある人は心房細動のない人と比較して、脳梗塞を発症する確率は約5 倍ほど高いとも言われています。また、通常の脳梗塞よりも脳細胞が広範囲にダメージを受けるために、麻痺症状や意識障害、梗塞後出血を合併するリスクが高くなると考えられます。
~3 治療について~
1 脈のリズムを治す
最近は抗不整脈薬(内服・点滴)以外に、症例によりますが、カテーテルアブレーションといって、心臓内の異常刺激を出している部分や通り道を高周波の電流を流して焼灼する方法があります。
2 脳塞栓を予防する
まず、これが心房細動に対しての重要な治療になります。抗凝固療法に用いる内服薬は以前まではワルファリン(商品名:ワーファリン)しかありませんでした。血を凝固しないようにする薬の量に個人差があり、薬の安定した効果が得られるまで時間がかかること、食事の影響を受けやすく、食事メニューによっては効果が安定しにくいこと、凝固と出血は表裏一体で、その幅が狭く、こまめに調整が必要であることが、ワーファリンの難しい点でありました。
しかし、これに対して “新規抗凝固薬” は、内服開始したその数時間後には十分な効果を発揮すること、効果が切れるのも早いために手術前後の管理がしやすいこと、食事の影響が少ないために食事制限がないこと、投与量の調節が容易であり安定した抗凝固作用が得られること、定期的採血は推奨されますがワーファリン程厳密でなくてもよいこと、などのワルファリンにはない特徴があります。さらにその脳梗塞予防効果についても比較的きちんとコントロールされたワルファリンと同等か、それより優れています。また一方で、大出血や脳出血の危険性はワルファリンよりも大幅に低いというメリットもあります。デメリットはまだ発売されて間もないことと、薬の値段が高いことです。
新規抗凝固薬は、現在ダビガトラン(商品名:プラザキサ)、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、アピキサバン(商品名:エリキュース)が心房細動で使われています。それぞれに特徴があり、症例によって多少の使い分けもしています。
すでに高齢化社会に日本も突入して、高齢で特有の疾患の増加もあれば、今までの疾患も様々な変化や治療の進歩があります。無症状で心房細動に気が付かない、実は隠れ狭心症や心筋梗塞などの心臓疾患を持っていることも、生活習慣病が増えてきた時代では十分にあり得ることです。
今まで元気していたのに、突然やってくる体の異常も稀ではなくなってきました。もし、気になる事があれば循環器科受診やかかりつけの先生に相談していただければと思います。
| Copyright 2014,07,01, Tuesday 12:00am administrator | comments (x) | trackback (x) |