(この記事は2015年11・12月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
| 整形外科 医長
祐成 毅 |
肩関節の回りには、肩を安定させて動かすために大切な腱板と呼ばれる筋肉があります。腱板は、前から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の4つがあり、腱板断裂とは腱板のいずれかが切れた状態を言います。
腱板断裂を生じる原因としては、主に外傷および加齢による変性があげられます。外傷には、転倒や転落での外力によるものから急激に腕に加えられた外力、重たいものをよく持つなど繰り返される小さな外力によるものまで含まれます。腱板の変性は40 歳頃から徐々に進行し、進みやすい生活習慣や疾患として、喫煙や糖尿病などが報告されています。
腱板断裂を生じていても、症状のない方もおられます。ある調査では肩が痛くなったことのない50 歳以上の約20%に腱板断裂を認めたという報告もあります。しかし、病院を受診される方のほとんどは、何らかの症状を認めます。
典型的な症状は、「肩が痛い」、「肩の動きが悪い」、「肩に力が入りにくい」の3 つです。痛みは、夜間に強くなったり、肩を動かしている途中で生じたりすることが多いですが、安静にしていても生じることがあります。
画像診断では、レントゲン、超音波検査、MRI
(図1)が有用です。特に超音波検査は、近年画質もきれいになり外来で侵襲なく簡便に行うことができますし、MRIもさまざまな撮像方法が開発され、診断能力が向上しています。当院でもそれらを取り揃えていますので、受診され必要と判断した場合は、検査を行います。
腱板断裂は、小、中、大、広範囲と断裂の大きさによって4つに分類され、治療の方針に影響します。
治療には保存療法および手術療法があります。一般的に、腱板が一度断裂すると断裂部位の自然治癒はなく、断裂の大きさも徐々に大きくなっていきますが、保存療法で症状が改善することもあります。痛みが強い時期には、痛みを伴う動作を禁止し、安静のために三角巾などで固定を行う場合があります。また、痛みの程度に応じて消炎鎮痛剤や筋弛緩剤、安定剤などの薬物療法、ヒアルロン酸やステロイドなどの関節内注射を行います。痛みが軽減してきますと、肩の保温につとめて頂きながら、肩を動かし、残っている腱板の筋力をつけるためのリハビリテーションを行います。保存療法で症状が改善した後も再発することが多いため、定期的に診察を受けて頂くことが大切です。
保存療法で症状の改善がない場合や若年者、重労働者などの活動性の高い方では、手術療法が選択されます。小、中断裂に対しては、関節鏡を用いた鏡視下腱板修復術
(図2)が主に行われます。1cm未満の小切開を4~5ヵ所行うだけの小さな侵襲で手術が可能です。大、広範囲断裂に対しては、関節鏡のみで対応可能な場合もありますが、多くは関節鏡を行った後、皮膚切開を1ヵ所4-5cm程度に延長して、直接腱板を見ながら修復します。修復の際、金属性あるいは吸収性のアンカーを、腱板が元々付着していた上腕骨に打ち込み、アンカーから伸びた糸を、断裂した腱板の断端にかけて縫合します。術後は、再断裂や疼痛の増強を防ぐために装具固定を行い、作業療法士によるリハビリテーションを
受けて頂きます。上述した腱板の修復が困難なほど、腱板の状態が悪い場合は、手術可能な施設や適応は限られますが、平成26年から日本でも導入された人工逆肩関節全置換術
(図3)を行うこともあります。
腱板断裂は、よく知られている四十肩や五十肩と症状が似ており、様子を見て状態が悪くなる方もしばしばおられます。前述した症状がある場合は、ぜひ整形外科を受診して下さい。