(この記事は2017年7・8月号の西陣病院広報誌『西陣病院だより』に掲載したものです)
| 外科 医長 平島 相治 |
虫垂炎という病気については御存知の方も多いのではないでしょうか? 誤って「盲腸」と呼ばれることもありますが、盲腸とは虫垂に連続する大腸の一部の名称ですので、正確には病気を指すものではありません。この虫垂炎について、皆様はどのようなイメージをお持ちでしょうか? データにもよりますが、約10%の人が一度はかかる病気と言われ、おなじみの病気です。
ひと昔前に虫垂炎で手術を受けた方なら、右下腹部に傷があるでしょうし、手術をしないで抗生物質だけで治療した方なら、「散らしたことがある」なんて答えられるでしょう。従来は虫垂炎と言えば、夜間であろうと休日であろうと、即時の手術で原因となる虫垂を切除していました。その理由として、抗生物質による治療が奏功しない場合には腹膜炎に移行する危険性や、抗生物質が奏功しても虫垂が残る以上は虫垂炎が再発する可能性があるからです。しかし最近は当院でも「まずは」抗生物質による治療をおすすめする機会が多くなりました。その理由としては以下の3 つがあげられます。
(1) | 抗生物質の進歩で大半の虫垂炎が治療可能になったこと |
(2) | 虫垂炎の程度によっては、抗生物質で治療をして炎症を治めてからの方が手術による合併症の発生や拡大手術になる危険性が低くなること |
(3) | 即時手術で切除した虫垂に癌が見つかることがあること |
特に2 つ目の理由は我々も痛感することで、炎症の極期の手術は虫垂周囲の癒着や虫垂そのものの腫大から、手術が非常に困難であることを感じます。虫垂炎の手術と言いながら、大きな傷になってしまったり、術後しばらくお腹の中にチューブが入っていた方もおられるのではないでしょうか? また3 つ目の理由も見逃すことができません。術前に虫垂炎と診断され、手術によって摘出された虫垂の約1%に癌が見つかると言われています。そうしますと癌のための追加手術が必要になり、再手術ということになります。
以上の背景から、まずは抗生物質による治療をおすすめしています。そして抗生物質の治療後に、大腸カメラで癌の検索を行った後に待機手術を行います。待機手術で虫垂を切除する必要性については様々な意見がありますが、虫垂炎再発の点や虫垂癌を見逃さないといった点から当院では虫垂切除をご提案します。当院での虫垂切除はお臍を2cm 程度切開して行う腹腔鏡手術です。抗生物質の治療によって炎症や癒着が改善しますと、この腹腔鏡手術が行いやすい状態になります。もちろん患者さんの背景や状態によっては、従来からの即時手術が適当な場合もありますので、十分ご説明させていただいて、柔軟に対応させていただきます。
虫垂炎はありふれた病気であり、良性疾患でもありますから、できるだけ体に負担の少ない方法で治すことが望まれます。十分な説明のもと、納得していただける治療をご提案させていただきます。